真山  民「現代損保考」


MS&AD6300人削減は経営責任の転嫁

 各紙MS&AD6300人の人員削減を報道

 

 昨年11月22日と23日、朝日、日経、毎日の主要紙をはじめ各紙が「MS&ADインシュアランスホールディングス(以下MS&AD)が、2025年度(26年3月期)末までに国内の生損保事業の従業員を6300人減らす」と報じた。

 3紙とも「6300人の人員削減と、それが自然災害による支払い保険金の増大による収益の減少に因る」ものという報道では共通している。日経は、さらにこう加えている。

 「MS&ADはグループ全体の従業員数4万人のうち、傘下の三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損保、三井住友海上あいおい生命保険で計6300人削減し、200億円規模の利益改善効果を見込む。定年退職による自然減に加え、割増退職金を支払う早期退職を実施し新卒採用も絞る。削減対象は全国勤務型の総合職や地域総合職、一般職などの正社員のほか、派遣社員なども含む。」

 

 人員削減計画は着々と実施

 

 この記事について、当のMS&AD・HDが次のようなコメントを加えている。

●6300人という人員削減は、グループ全体の「2022~2025年中期経営計画」の要員効率化で見込んでいる計画であり、追加して要員効率化に取り組むものではない。

●三井住友海上でも、業務効率化により2022年度末には中期計画の3分の2は実行済みとなり、以降は定年退職等による自然減が中心となる。新規採用を抑制する予定はなく、中途採用も要員状況を踏まえつつ、適切に実施していく。

 

 6300人という人員削減は「2022年~2025年中期計画」に織り込み済みなのであって、新たに実施するものではないということだ。事実、MS&AD全体の従業員数の推移を「有価証券報告書(2022年3月期)」でたどると、2020年から2022年にかけて、正規従業員で1620人、臨時雇用者も948人も減らしており、人員削減に拍車をかけている。

 

 2018年3月末 41,295人(ほかに平均臨時雇用者数が9,745人)

 2019年3月末 41,467人(同9,142人)

 2020年3月末 41,582人(同9,051人)

 2021年3月末 41,501人(同8,615人)

 2022年3月末 39,962人(同8,103人)

 

 経営責任には頬かむり

 

   しかし、これらの報道も、MS&ADのコメントも、支払保険金の増大、収支悪化が人員削減の要因とそれが自然の流れのように述べるだけで、経営責任については触れず、問題の本質を避けている。MS&ADが一昨年11月22日に開催した投資家向けの「2022年度第2回インフォメーションミーティング」の資料によると、同グループが挙げている「収支改善のドライバー」は、次の3つだが、その中に明白な問題が存在していることがわかる。

 ①MS AmlinのAUL、AAGの各事業の収益改善。

 ②事業費の改善 グループ一体となって各領域で効率化を進め、事業費の削減を加速させる。

 ③火災保険の収支改善

 

   このうち、③の火災保険の収支改善については、今年度上期における国内の自然災害にともなう正味発生保険金(支払った保険金から再保険による回収を差し引いたもの)は、MS&AD・HD (899億円 前年同期比585億円の増加)だけではなく、東京海上HD(1090億円 813億円の増加)、SOMPO(1016億円 同272億円の増加)も同じだから、人員削減の理由にはならない。

 問題は、①のMS AmlinのAUL、AAGの収支改善、という項目である。MS&ADが2016年に約6400億円という巨費を投じて買収した、英国ロイズ保険市場を中心に保険事業を展開する持株会社Amlin傘下のAUL(Amlin・Undewriting・Ltd)とAAG(MS・Amlin・AG)における再保険、海上・航空機保険、企業保険などの分野での収支の改善を図るというものだ。

 MS・Amlinは2022年度第1四半期に正味保険料にして13億9800万ポンド(2022年6月末現在の対ポンド換算で約2300億円)を上げたものの、EIレシオ(*注1)で110.3%、約9300万ポンド(約153億円 対前年同期比で約72億円)の純損失を計上する羽目になり、むしろMS&ADの足を引っ張っている状況だ。

 因みに、メガ損保3グループの今年度3月末の海外保険市場における最終損益を比較すると、東京海上が2700億円と群をぬいており、SOMPOが810億円なのに対して、MS&ADは50億円と一回り小さい(日経 2022.11.23)。

 すなわち、③の火災保険の損害率の高騰は自然災害によるものであり従業員には責任が無いとすれば、①のMS Am linの収支悪化はMS&ADの海外市場政策の失敗が人員削減の主たる動機ということになる。その経営責任に触れず、役員報酬(*注2)を返上することもなく、人員削減でつじつまを合わせようとする。なによりそのことが問われるべきではないか。

 

 行くつく先は新興国へのアウトソーシング?

 

 日経は11月25日にも「MS&AD統合12年、スリム化に課題 6300人削減」という見出しで次のような記事を掲載している。

 MS&ADグループの2021年度の国内損保事業費率は32.5%(三井住友海上が31.4%、あいおいニッセイ同和損保が33.8%)、損害保険ジャパン(33.5%)よりは低水準だが、東京海上日動火災保険(31.5%)よりも高い。

  つまり、「MS&ADは東海に後れることなく、人員削減をはじめとした事業費の削減に努め、収益拡大にまい進せよ」、そうハッパをかけているのである。

 MS&ADはこれを受けて、特にあいおいニッセイ同和損保の事業費の削減にいっそう努めるだろう。その行くつく先は、「(男女、正規・非正規社員を問わず)ホワイトカラー業務を人件費の安い(インドのような)新興国のホワイトカラーで代替する」(『成長の臨界』 河野龍太郎著 慶應義塾大学出版会)道かもしれない。そういうまがまがしい事態に、どう立ち向かうか。損保で働く者だけに留まらず、日本の労働者全員に突き付けられた課題である。

 

*注1 アーンド・インカード損害率 当期発生ベースでの損害率を示す指標で、以下の式で算出する。アーンド・インカード損害率=発生損害額÷既経過保険料)