斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

 

    教員離れの背景にある不条理 


 さいとう・たかお 新聞・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。近刊「『マスゴミ』って言うな!」(新日本出版、2023年)、「増補 空疎な小皇帝 『石原慎太郎』という問題」(岩波現代文庫、2023年)。「マスコミ9条の会」呼びかけ人。


 公立学校の教員志望者が激減している。朝日新聞の調査によると、2024年度採用試験の志願者は全国で12万7855人。過去5年間で2万3517人(15・5%)も減ってしまった。

 主な原因は「長時間労働の問題が知られて学生に敬遠されている」ことらしい。「国家や企業のための人材育成という方向性が強まり、教育に理想を感じられなくなったこと」も大きいのではないか。

 人手不足が深刻化していくに伴い、1人あたりの負荷は重くなる一方だ。今や教員の残業時間が「過労死ライン」(月80時間)に達した公立校の教員は小学校で14%、中学校で36%にも達したとか。

 たまりかねた中央教育審議会の特別部会は8月末、「緊急提言」を公表。学校の危機的状況を訴えるのに躍起だが、そんな折も折――。

 神奈川県川崎市の小学校教員と校長が、市教委に約95万円の損害賠償を請求された。注水スイッチの操作ミスで、プールの水が6日間も出しっ放しになり、巨額の水道料金が計上されたためだという。

 これには多くの市民が疑念を抱いた。報道発表の直後から市教委に抗議が殺到し、市長が「(請求額は)妥当な線」と語るに及んで、事態はさらにエスカレートしている。

 07年に佐賀市で、不審者と間違われた知的障害のある25歳の男性が、大勢の警察官に取り押さえられ、絶命させられた事件を思い出す。遺族は「特別公務員暴行陵虐罪」だとして民事・刑事の両面で裁判を戦ったが、いずれも全面敗訴。警察官らには落ち度がなかったことにされた。

 公務員は何をしようと個人的責任を負う必要などないと言いたいのでは、まったくない。教員だと単純ミスでも大金を負担させられ、警察官だと人を殺しても何も問われない、理不尽すぎる差こそが問題なのだ。

 教育が滅びたら、人間は育たない。世の中にも何も残らないと知るべきだ。