「働く」はみんなのもの

     

                     竹信 三恵子


 たけのぶ みえこ  朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。


 家事労働とケア労働(8) 家政婦過労死の衝撃

 

 この連載で述べてきたように、家事労働とケア労働は労働全般を規定する重要労働だ。だが、この労働は負担度さえ十分に理解されていない。家事とケアは女性なら誰でもできる軽い仕事とされてきたからだ。

 そうした見方を覆したのが2020年の「住み込み家事労働者過労死訴訟」。これは、家事やケアが死も招きかねないことを明るみに出し、衝撃を与えた。

 15年、当時68歳の家事代行の女性が住み込みで6日間、高齢者の介護と家事労働に従事し、仕事明けに倒れて亡くなった。労基署は過労死と認めず、遺族は労災認定を求め、国などを被告に訴訟を起こした。

 判決文によると、介護されていた高齢者は最も重い要介護度で、女性は毎日午前5時から午後12時までの19時間、家族の口出しなどのストレスの中で働いた。

 だが判決は、労災と認定できるのは家事代行サービス会社との契約による介護労働の4時間半だけとし、残りの14時間半は住み込み先の家庭との契約による家事労働であるため労働時間に含まれず、過労死とは言えないとした。

 背景にあるのが労基法116条2項だ。ここでは、労基法は「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」とされているからだ。

 戦後の労基法制定の際、家族の指揮命令で働く家事使用人は労基法の対象から外された。戦前の「女中奉公」の延長としての封建遺制、とする批判は当時からあった。

 「家族の一員だから」という見方も作用したというが、ここには、家族に気兼ねしながらの住み込み労働が通い以上に過酷になりうるという認識がない。家庭は愛と配慮の場所とされ、そこでの暴力は不問にするイデオロギーがある。それはDVの土壌でもある。