昭和サラリーマンの追憶 

              

      

   「そごう・西武」のストに思う

 

           前田 功


 まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表


  8月31日、百貨店の「そごう・西武」の「池袋本店」がストで終日休業となった。

 

 「百貨店なんて、何十年も行っていないなあ」と思いながらニュースを見ていると、地下の総菜売り場の映像が目に入った。「そうか、あれも百貨店だったか」と、数カ月前通りがかりに近くのターミナル駅のデパ地下でお惣菜を買ったのを思い出した。 

 高度成長期、百貨店は小売りの王様と言われ隆盛を極めた。デパートがすぐそばにあるような都心に住んでいる人は別として、多くの人は、日常は近所の商店街(それは個人商店の集まりだった)で買い物をし、たまに都心に出掛けて百貨店で買い物をするというのが一般的だった。高価な買い物については特にそうだった。 

 それから、ダイエーをはじめとするスーパーマーケットが進出し、庶民の買い物はスーパーへと移り、個人商店はだんだん少なくなっていった。

 そんな中でも、「お歳暮やお中元は百貨店でなきゃ」という人も多かった。ハレの場では、百貨店の包み紙が大事だという人が多かったのだろう。

 その後、スーパーと専門店が入ったショッピングセンターが多くなり、現在は、多くの人がそこを利用するようになっている。さらに、インターネットの普及で、通販という生活も一般化している。

 

 こう見てくると、われわれ庶民の生活の中で、百貨店の出る幕は少なくなっている。百貨店の閉店も多い。この20~30年で閉店した百貨店は数知れない。 

 この数年の話で、百貨店が儲かったという話で記憶に残っているのは、外国人観光客の「爆買い」と、何百万何千万円もする超高級腕時計や絵画などのことくらい。われわれ庶民とはかけ離れた世界の話だけだ。

 

 そんな百貨店のスト。ニュースをみたとき、社会に訴える力は小さいのではないかと思っていた。多くの人が通勤に使う私鉄やJRのストなら、社会に与える影響は大きいが。

 通勤帰りに、池袋で降りて、地下で夕ご飯のお惣菜を買おうと思っていた人は困ったかもしれないが、多くの人は「あの店がストしても私には関係ない」、「デパートがストをやっても、一日分の売り上げが減るだけ」、と思ったのではないだろうか。そんなことから、ストの成果は期待できないかなと思った。 

 そんな浅はかな私の推測は外れ、マスコミは大きく取り上げ、反響は大きい。大手百貨店のストは、1962年(昭和37年)の阪神百貨店のスト以来、61年ぶりだそうだ。テレビに映される街のコメントは、ストに対し理解を示すものが多い。ストライキは労働者の権利だということが再認識されたのだろう。

    

 少し、問題を整理してみよう。 

 「セブン&アイ・ホールディングスは、セブン・イレブンなどコンビニ・チェーン、イトーヨーカ堂など総合スーパー、そして、国内に10数店舗ある百貨店を運営する子会社「そごう・西武」・・・、などを保有する持ち株会社であった。

「そごう・西武」は4年連続赤字で3000億円の借金を抱えていた。セブン&アイHDがこの会社の株式を米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに売却したという案件である。(この米ファンドは、数カ月前まではソフトバンクの子会社だったようだ。)

 

 「そごう・西武」の労働組合は、雇用の維持はもちろん、配置換えやグループ企業への転職ではなく、「百貨店に就職したのだから、百貨店の仕事がしたい」と訴え、経営陣と交渉してきた。売却の時期(9月1日)が迫り、8月31日、スト決行となり、池袋本店が終日閉館、ストには約900人が参加した。

 

 気になるのは、これまで交渉してきた「経営陣」というのは、「そごう・西武」の経営陣なのか、「セブン&アイHD」の経営陣なのかということである。おそらく、「そごう・西武」の経営陣と何度か交渉してきたが埒が明かず、最後の方になってやっとセブン&アイHDの経営陣と直接交渉できたのではないかと思う。

 親会社に支配された子会社の経営者には、実質的な決定権がなく、労使交渉の場でも、責任のある発言ができない。ましてや、今回のように、会社自体を別の他人に売り渡す問題についての場合、何をか言わんやである。親会社に支配された子会社の労使交渉の不具合の典型だ。 

 報道によると、セブン&アイHDは、「百貨店子会社そごう・西武の従業員について米ファンドに売却した後も雇用を維持するよう努力する。余剰人員は「そごう・西武」内での配置転換に加え、イトーヨーカ堂などセブングループ内での業務に充てる」と言明している。 

 一般論で言えば、売手が、売却した後の企業の雇用に責任を負うというのは、あまり多くはないと思う。それだけ従業員の反発も大きかったのだろうが、セブン&アイグループも全体としては人手不足で、(優秀な人材は)むしろ来て欲しいという側面があったのかもしれない。