団体交渉が機能しない現実とストライキ


                      ジャーナリスト・東海林 智


 ●ストによりそう同業他社

 

 そごう・西武労働組合(寺岡泰博委員長)が、「そごう・西武」の売却を巡り8月末にストライキを決行して、ひと月になる。大規模百貨店では61年ぶりとなるストは、その結果も注目を集めたが、スト自体が投げかけた波紋も小さくはなかった。

 労組が会社側にストを通告した際に開いた会見(8月28日)に、同業他社の労組が同席したのは記憶に新しい。スト当日も百貨店労組の仲間が支援に駆けつけた。実は彼らは、売却が表面化してからおよそ1年半、そごう・西武労組にずっと寄り添ってきた。彼らの目に今回のストはどのように映っていたのか。

 高島屋労組の西嶋秀樹委員長は、「ストが労働者の権利であるとはもちろん理解していました。けれど、ストは我々の業界とは無縁のものだと思っていた」と語る。お客さんを相手にする商売でまず考えるのは「お客様に迷惑をかけないか」だからだという。そこからストという発想は出てこない。実際、加盟する産別のUAゼンセンは春闘時に、スト権を立てての産別統一闘争を戦術にしているが、百貨店グループは統一闘争に参加していない。春闘を含め労使協議に全力を挙げ、スト権を立てるのは、極めて慎重だったことがうかがえる。

 もちろん、そごう・西武労組も同様だった。そんな中で、そごう・西武のストの決断を知る。西嶋委員長は「ストの決断に何の違和感もなかった。私だけでなく、経緯を見てきた百貨店の仲間はみなそう思ったはずです」と振り返った。「ストでしか打開できない」。それは1年半経緯を見てきた者たちの共通の思いだったという。

 

 ●連合会長は一言も触れず

 

 今回のストを巡る一連の報道の中で、売却を巡ってそごう・西武労組が運営会社と何度団体交渉を行っても、数字を含め具体的な情報が一切出てこなかったことや、親会社であるセブン&アイ・HDが団交に応じず、運営会社との団交にも出席を拒否したことを伝えてきた。まさにそのことが、「ストなど無縁」と考えていた百貨店の労組が考えを変えるきっかけとなった。持ち株会社(HD)化など会社の形が変わる中、頼みとする団体交渉が機能しなくなっている現実が目の前にあったのだ。

 それだけに、今回のストで前面に出てこなかった産別への不信感が増した。9月に開かれたUAゼンセンの定期大会で、百貨店の組合を中心に本部のストへの対応を問いただす質問が相次ぐ異例の事態へとつながっていった。質問では、本部の対応を「残念だ」「何のための産別か」と言った意見もあったが、むしろ、団体交渉が機能しないような事態が生まれる中で、そのことをどう認識し、どう取り組んで行くのかを問うことが本質だった。

 61年ぶりに行ったスト。そしてその前段としてのスト権確立で、団交は動き出した。百貨店労組の関係者は「1年半を超える会社との交渉で、(スト権確立後の)8月4日以降の4回が団交と呼べる実質があった」と言う。もちろん、その中にセブン&アイの井阪隆一社長が同席した団交も含まれる。スト権を背景にすることで、団交を機能させることに成功している。だからこそ、激しく問いただしたのだ。

 その答えは、UA本部だけに求められているのではない。定期大会に来賓として招かれた連合の芳野友子会長は、ホットな話題のストライキには一言も触れることなく会場を去った。連合はどんな見解を持っているのか、多くの組合が注目している。