昭和サラリーマンの追憶

 

 

              軍備増強にNOを

 

      

 

           前田 功


 プーチンが、「ロシア大帝国の夢よ、もう一度」と、ウクライナ侵攻を初めてから半年が過ぎた。そして、日本は敗戦から77年目の夏を迎えた。

 プーチンは、侵攻を始めるにあたって、「ロシアは核兵器大国である」と述べた。彼には、「核兵器の使用は全人類を壊滅させるが、ロシア大帝国の夢が実現できないなら、そうなってもいい」という意識があるようだ。核兵器の保有は戦争抑止には効果はなく、かえって戦争を誘引するということが証明された。

 

 日本の世論は、プーチンの無法ぶりに怒りと恐怖をあらわにしている。ただ、改憲派はその感情につけこんでここぞとばかりに、こういう無法者がいるからこそ日本にも軍備が必要だ、軍事予算を2倍にする、核兵器もアメリカと共有するのだと勢いづいている。

 核兵器ではなく通常兵器であっても、軍備増強は国家間の平和と安全を危うくする。たとえ侵略や武力による威嚇の意図がなくても、他国の不信感を高め、不必要な武力紛争を引き起こすことになりかねない。(一般市民が自由の銃を持てる米国では、銃による事件が後を絶たない。銃が世の中にあるからだ。)

 核戦争は全人類が被害者になるからダメだが、通常兵器での戦争は、正義のためにはしかたがないという人は多いようだ。しかし、実際に戦争になれば、殺される人が必ず出る。殺される人ひとりひとりの立場に立って考えれば、核兵器であれ通常兵器であれ、何で殺されても同じことだ。

 

 今回のウクライナ侵攻を、ロシアが、理由もなく、突然、侵略を始めたように言うのは誤りだ。

 ウクライナは、2014年の政変以降、ロシアの軍事的侵略に備えるということで、米国などNATO諸国から軍事支援を受け、年々、軍備の増強を続けてきた。そのことが、ロシアの「脅威」となり、少なくともロシアの「口実」となって、侵略行為に道を開いたという現実にこそ注目すべきだ。

 それを口にすることは、ロシアの侵略を正当化し、利する行為だとして目を瞑ることは、我々が選択すべき道を誤らせかねない。

 この事態から引き出すべき教訓は、侵略に怯えて軍備増強を進めることは、軍事紛争の現実的危険性を高め、引き金や口実となるということであり、現にそうなったということである。

 

 ここであらためて、憲法第9条を読み直してみよう。

 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 

 2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 この9条は、77年前、アジアで 2,000 万人、日本人数百万人の犠牲と痛苦の経験から生まれた。その後、自衛隊ができたが、憲法の規定は変更せず、さらにGDP比1%とする防衛費の上限目安と、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」と定めた「非核三原則」が加わった。この3点セットは、かって日本が支配した東アジアの国々の不安を緩和してきた。

 

 しかし、岸田政権は、ロシアのウクライナ侵攻を受けてということで、我が国の軍事費を、GDPの2%に倍増すると言っている。2倍になると、11兆円。日本は、アメリカ、中国に次いで世界第3位の軍事費大国ということになる。

 また、現在、ヘリ搭載護衛艦「いずも」「かが」の2隻を、F-35B戦闘機を搭載できる空母に改造中だという。空母は、大陸間弾道ミサイル、長距離爆撃機と並んで、他国に攻め入るための軍備の象徴であり、専守防衛とは相いれない。さらに、奄美諸島、沖縄本島、宮古島、石垣島などに、中国に向けたミサイル基地を作ろうとしている。

 軍備増強は「軍事対軍事」=軍拡競争の悪循環をもたらし、戦争へとつながる危険をつくり出す。たとえ侵略や武力による威嚇の意図がなくても、他国の不信感を高め、不必要な武力紛争を引き起こすことになりかねない。

アメリカの世界戦略の軍事的前線基地として、台湾有事を想定しながら軍備増強を進めることは、中国や北朝鮮の不安を煽り、軍事的緊張を高めわが国への軍事攻撃の口実を与えるだけであることは、ウクライナの事態からあきらかだ。

 

 武力による平和に未来はない。憲法第9条の立場を貫き、東アジアを対話と協力、そして平和の地域にするために力を尽くすこと、様々な外交ルートを拡げ、軍事的脅威を高める国とも交渉のパイプをつくることでこそ、国民と国土を守り抜くことができる。軍事対軍事で緊張を高めるのではなく、憲法第9条を生かした平和外交を強めることが大切なのである。

 ウクライナ報道に煽られて一気に軍備増強に向かおうとする流れに、NOを突きつけよう。