昭和サラリーマンの追憶

 

 

        36協定違反の残業をやったから、最悪の評価?

 

      

 

           前田 功


 

 大手損保で働いているA子さん、個人加盟の少数組合に属している。一昨年、担当替えがあり、かなり広範囲で多くの人とかかわる仕事を任されることになった。彼女自身がそう言ったわけではないが、仕事面で多くの人から頼りにされているようである。控えめな人である。

 長年にわたって、ひどい考課を受けてきた。それは、組合差別であることはわかっていたが、その担当替えは、会社が彼女の能力を高く評価しているからと思われ、これからはひどい評価から抜け出せると彼女は期待していたという。ところが、昨年度の考課結果は、これ以下はないというひどいランクだったという。

 課長に、「なぜこんな評価のなのか」尋ねたところ、「あんたが、36協定違反の残業をつけたことで、俺が人事から叱られたからだ」という回答だったという。筆者は、この話を聞いて、絶句してしまった。36協定違反は、会社や管理職が罰せられるもので、残業をやらされた労働者に責任はない。彼女は訴えていないが、労働委員会や裁判所に訴えたなら、彼女が勝つことは明らかだ。

 36協定違反の残業をしなければならないほど仕事を押し付けておいて、「やったお前が悪い。そのため、俺は叱られた。だからお前の評価を最悪につけた」というのは、もう無茶苦茶というほかない。こんな野蛮な管理職が、損保業界にいるのだろうかと思ってしまう。

 

 筆者は、この話を聞いて、次のように思った。

 この評価は、過去、彼女が受けてきた組合差別による考課と同じと考えられる。従来以上に、周りの人から頼りにされる彼女。能力主義か成果主義か知らないが人事考課表に記載の事項からすれば、どうあがいても彼女に最悪の評価はつけられない。しかし、組合差別で彼女に最悪の評価をつけるのは会社(人事)の方針。人事には逆らえない。それで、方針通り、最悪の評価をつけた。それを問い詰められても、「所属組合が理由だ」とは言えない。それで、この課長は野蛮を装って、こんな答え方をしたのだと思う。

 

 課長が人事から怒られたことは事実かもしれない。この会社では、36協定違反になるような残業は日常的だが、違反部分は「サービス」させているのだと思う。彼女は、サービスすることなく、きちんと請求した。この課長は、「サービス残業」にさせて誤魔化すことができなかったことを、人事から叱られたのだろう。 

 いずれにしても、この会社の人事のひどさが見て取れる。

 この会社のホームページを見ると、SDGsとか社会的貢献とかいった美しい言葉が並んでいるが、こういった現場の実態を聞いたうえで読むと、読めば読むほど白けてくる。