暇工作「生涯一課長の一分」

             後援会名簿強制作成


 K子さんから、こんな話を聞いた。損保会社勤務の夫が、組合から参議院選挙に向けての取り組みとして、候補予定者の後援会員名簿集めをさせられているというのだ。損保会社の多数派労組は、賃上げ要求もせず、加盟する連合の芳野友子会長による「組織内候補当選のために、まずは組合員とその家族の票を固める」という選挙活動に奔走させられているのか。

 「オレはその候補者に投票する気はないが、組合の上部からの指示だから、うまく身を処したい、と言って、私の名前まで書きこんでいるんですよ。なぜ、断らないんでしょう。政党支持とか選挙での投票先は、憲法に保障された個人の権利で、組合や会社が強制できるものじゃないでしょ、断ったからと言って、まさか組合が首にするわけないし。他人にはカッコいいタテマエ論をぶつ人なのに、自分のことになると、男って案外勇気がないのね」とK子さんは嘆く。

 

 暇は、人間弱いものだ、同調圧力は強力だから、夫の立場も理解してやれよと、K子さんをなだめるつもりは毛頭ない。夫は自分の投票の自由は守っているのだからと、言い訳しているらしいが、本当にそれで「自分の投票の自由」が守られたと思っているのだろうか。後援会名簿への登録にとどまらず、候補者名を書き込んだ投票用紙を、スマホで撮影して届けることまで強制されているところもある。後援会名簿登録はそれへの通過点かもしれない。K子さんの夫は、その認識が甘く危機感が希薄だ。自分の行動を自己中心的に合理化しているだけで、踏みとどまるべき1丁目1番地の重要性を理解していない。

 

 K子さんの夫は大リーグファンだという。ならば、その大リーグのジャイアンツの監督、ゲーブ・キャプラーさんのことを知っているだろうか。

 キャプラー監督は5月27日、テキサス州の学校で起こった児童19人を含む21人が死亡した銃乱射事件を受けて、政府の政治姿勢への抗議を示すため試合前の国歌斉唱時にグラウンドに立つことを拒否すると語った。

 AP電によれば、キャプラー監督は、ブログへの投稿で「政治家が、子供たちが防弾機能のあるリュックや銃の訓練なしに通学できる自由よりもロビイストや銃器産業のほうが重要だと考える時、私たちは自由ではなくなる」と訴え「胸に手を当て、帽子を脱ぐたびに、私はこのような大量殺りくが行われる唯一の国に対する自己賛美に参加している。水曜日(事件翌日の25日)、私はグラウンドで犠牲者を悼むアナウンスを聞き、国歌斉唱に立った。頭は膝を付けと命じていたが、私の体は言うことを聞かなかった。ベンチへ下がろうとも思ったが体が動かなかった。自分は腰抜けだと思った。注目を浴びたくなかったし、犠牲者や遺族から目をそらしたくなかった…」と続け、「父から学んだ、自分の国に不満があるなら抗議行動でそれを知らせるということを実践できればよかった」と自分のふるまいを後悔したことを明かしている。 

 

 おかしいことはおかしいという。少しばかりの勇気を出すべきところで、いつも周囲に同調しているだけでは、人としての資格が問われないか。キャプラーさんの問いかけを、他人事と聞き流してはなるまい。