斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

 

         いつか見た光景

 

 

 ウクライナ外務省が4月下旬に配信した、ロシアとの戦争における各国からの支援に感謝する動画が、日本国内でかなりの話題になった。米国をはじめ31カ国の国名が挙げられているのに、2億ドルの資金や食糧、医療器材、防弾チョッキ、ドローンなどを提供した日本が無視された、ケシカラン、というのである。

 最初は自民党の国会議員が言い出して、ネット上で反発の声が広がった。「2億ドルでは足りなかったみたいです」と、皮肉たっぷりのツイートを投稿したのは、匿名掲示板「2ちゃんねる」の解説者として知られるひろゆき(西村博之)氏だった。

 既視感たっぷりの光景ではないか。あれは1991年の湾岸戦争。クウェート政府が米紙に載せた各国への感謝広告に、やはり日本の国名がなかった。

 130億ドルもの資金を援助したのに――。日本国内は今回どころではない騒動にもなったが、何のことはない。日本は対イラクの多国籍軍には加わらなかったから、その参加国に向けられた感謝広告の対象にはならない。それだけのことである。

 憲法で戦争はしないと決めているのだから、それで何も問題はない。しかし当時の政財官界は、これを「湾岸戦争トラウマ」などと称し、「軍事力で貢献し、血を流さなくては国際社会に感謝されない」という意識を人々に刷り込んで、自衛隊の海外派遣を進めた。今日に至る憲法改正へのモチベーション、好戦的な世論が醸成される契機になったことも記憶に生々しい。

 ウクライナの感謝動画もまた、武器や兵器を供与した国々へのものだった。ただし、それは彼らの立場であって、日本は日本にできることだけを淡々とやればいい。

 だが、またしても政財官界は、こうした状況を絶好のチャンスと受け止めているようだ。今度は本格的な戦争準備が始まった。いまあらがわなくては手遅れになる。