雨宮処凛の「世直し随想」

          「祝祭の陰で」手に取ってほしい


 コロナ禍の2年間にわたり、苦境にあえぐ全国各地を巡った連載が終わり、一冊の本として出版された。「祝祭の陰で 2020―2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く」(岩波書店)だ。

 取材を始めたのは、まだ新型コロナウイルスなど知られていない19年。当初は「『復興五輪』の名のもとに開催される東京オリンピックの裏側を見て歩く」という企画だった。よって最初に取材したのは、住んでいた公園を五輪のために追い出された野宿の女性。新国立競技場建設のため、明治公園に住む10人ほどの野宿者が立ち退きを迫られたのだ。

 そんな現場を取材しているうちに、日本にもコロナウイルスが上陸。そうして聖火リレー出発のわずか2日前の20年3月、五輪は延期に。そこからすぐ緊急事態宣言が発出され、この国が、一斉に動きを止めた。

 

 店を開けられない飲食店や、激減した日雇い派遣の仕事。中止になった巨大コンサートや各種イベントで仕事にあぶれた人々。ライブが軒並み中止になって収入が途絶えたミュージシャン。70代のタクシー運転手はある電話相談会に、生活苦から「臓器を売りたい」と電話をかけた。一方、住民票のないホームレスには届かない特別定額給付金。「コロナの発生源」と集中砲火を浴びた屋形船。コロナ患者を受け入れる病院。

 あらゆる現場を巡った2年間で最も驚いたのは、医療崩壊と言われ、多くの人が自宅で命を失う中、五輪が開催されていたということだ。不条理劇場のような2年間の記録。ぜひ、手にとってほしい。