昭和サラリーマンの追憶

 

 

          ジョブ型雇用は解雇規制緩和狙い

      

 

           前田 功


 損保ジャパンは、部長・課長職、そしてデジタル系やマーケティング系などについて、ジョブ型として、新卒者や転職希望者、既存社員から希望者を募るそうだ。

 「就社」してもどんな仕事をさせられるかわからない、勤務地もどこになるかわからないと、現在の就職の形に不安を持っている就活中の学生の中には、「ジョブ型、いいね」という人も多いそうだ。しかし眉につばを付けて考えないと危ない。

 

 二匹目のどじょう狙い

 1995年、日経連は、『新時代の日本的経営---挑戦すべき方向とその具体策』と称して、従業員を①「長期蓄積能力活用型グループ」 ②「高度専門能力型グループ」 ③「雇用柔軟型グループ」の3形態に分けてやっていくという指針を出した。そこには、労働力の「弾力化」「流動化」を進め、総人件費を節約しようという目的があった。

 それから四半世紀。③のグループは、アルバイト・派遣社員・契約社員など低賃金の非正規雇用に置き換えられ、非正規雇用は働く人の4割を超える状況となった。人件費は削減され、労働分配率は下がりっぱなしだ。

 これを支えたのは、2000年代はじめ小泉政権のときの「労働者派遣法」の改悪である。派遣社員については、規制緩和と称してそれまでも利用可能範囲が順次広げられてきたが、この改悪によって、それまで許されなかった製造業務までOKにした。その影響で大企業は正社員の採用を大幅に抑え、非正規雇用で実質「ジョブ型」雇用を行なってきた。企業はこれを、人件費削減ができ、かつ「いつでも首が切れる」便利な道具として、利用してきた。 

 そして最近のジョブ型騒ぎである。今度は上記①や②の正社員がターゲットだ。二匹目のどじょうを狙っているのだ。

 「ジョブ型」雇用というのは、社員の仕事の役割と責任を明確にし、職務内容を明文化することで、それに基づいて必要な人材を採用する制度である。非正規ではなく正社員であるが、ここに落とし穴がある。 

 

 経営側の真意

 今回の経営側の真意は、正社員を解雇しやすくしようということにある。現在ところ、正社員を解雇するには、「解雇4要件(※)」を満たす必要がある。有名大企業でも、正社員を大量に実質解雇しているケースはたくさんあるが、いまのところは、「早期退職募集」と銘打ったり「肩たたき」「いやがらせ」をして辞めさせたりしている。しかし、それは3月号で紹介した「上野仁さん」のように最後まで頑張る人には通用しない。 

 「リストラ」という言葉は、いまや「解雇」「クビ切り」の意味で用いられているが、もともと「リストラクチャリング」とは、企業が事業を再構築することを意味する。ジョブ型雇用においては、会社が事業を再編してそのジョブが廃止になれば、その雇用契約は終了する。

 ジョブ型においては「やっていた仕事がなくなった」というのは、正当な解雇理由となるのである。さらに、業務能力や業績に対する評価権は企業側にあるわけだから、「その職務に求められる資質や能力を持っていない」というのも解雇理由となる。経営側は、正社員であってもジョブ型社員に対してなら「お前にさせる仕事はない」と言って解雇しても、違法ではないことになる。

 経営側は、ジョブ型社員を増やすことで、解雇に対する法律の抜け道を通りやすくしようとしている。そして、解雇規制の実質的緩和を狙っているのだ。

 

 (※)「解雇4要件」とは、

 1.人員整理の必要性

 2.解雇回避努力義務の履行

 3.被解雇者選定の合理性

 4.解雇手続の妥当性