昭和サラリーマンの追憶

 

 

             不正の認識と残業代

      

 

           前田 功


 プーチンのやっていることは国際法違反だ。彼は、国際法は知っているが、違法行為が身についてしまっているため、違法性の認識がない。それは彼が、旧ソ連のスパイ組織(違法なことをやるのが仕事)で出世してきて現在の地位にあることによる。違法行為をずっと続けているうちに、それが習慣となり、自然と身について、ついには彼の生まれつきの性質のようになったのだ。

 

 SMBC日興証券の相場操縦事件で逮捕された幹部たちは、相場操縦はやってはならないことと知ってはいたが、儲けるためには、法はすり抜ければいいという考えで今までいろいろやってきた。今回はすり抜けられなくて逮捕されただけだ。

 自分のためだけではなく、属する組織のためにもなるなら、違法な行為をやることに罪悪感が少なくなるようだ。

 

 過去、報道されてきた大手企業の検査や経理の不正について、その実行者はほとんどが「会社のためになっている」と思ってやっている。

 多くの人に不正の認識が少ないようだが、サービス残業も不正行為だ。残業代を請求しない分だけ会社が得をするのだから、その面では会社のためになっている。サービス残業をしたからといってその人が罰せられることはない。しかし、それを黙認した会社は違法として罰せられる。 

 大手有名企業では、格好つけてコンプラ研修を行っているが、労働法の精神に反することはコンプラ違反だとは教えていない。サービス残業は違法だ。特に「早出残業」「早朝出勤」は「残業代の対象ではない」かのごとく従業員に思い込ませ、残業代を払っていない企業が多い。コンプラ研修を売り物にしている研修屋で、残業について正しく研修しているところは顧客企業から嫌われるようだ。

 大手有名企業では、裁量労働だとかみなし残業だとか言って、残業代の不払いが横行している。裁量労働制は、実際は「定額働かせ放題」制だ。裁量労働なら、対象者は自分の裁量で自由に働ける・・・つまり何時に出勤し何時に帰ろうと会社側は文句を言えないはずだが、ほとんどの会社では、そんなのは夢のような話というのが実態だ。規程は一応整えているかもしれないが、運用は全くの違法だ。

  霞が関の官庁は“不夜城”と呼ばれるほどで、残業がすごいことは以前から知られていたが、その残業代が支給されていないことが、昨年、公務員制度担当だった河野太郎大臣の発言によって多くの人の注目を集めた。(ちなみに、国家公務員には労働基準法は適用されず、人事院が規制することになっている。)

 報道によると、内閣官房の通称「コロナ室」に勤務するひとりの職員は、2021年1月の1カ月間だけで、378時間もの残業をやっていたという。土日祝日を含め、1日平均17時間仕事をしている計算になる。コロナ室全体でも、1月の平均残業時間は約122時間。これは、いわゆる過労死ラインとされる月80時間をはるかに超える水準だ。

 

 人事院は、国家公務員の残業時間は月平均30時間程度と発表している。だが、この数字は実態を表していない。というのも、官僚たちの残業手当は予算によって最初から部署ごとの総額が決められており、その上限を超える残業は“なかったこと”にされているからだ。

 河野大臣は残業代の適正な支払いを各省に指示し、その後、残業代はかなり支給されるようになったと聞く。ただ、それは残業代を請求する人についてのみであって、請求のないサービス残業に対しては支払われていない。

 サービス残業は不正行為である。この不正を不正と思っていない組織は、不正が「習い性となる」。そしてやがては大きな不正を犯すこととなる。報じられる霞が関の不正もここに遠因があるのではないか。

 厚労省は残業代をきちんと払えと民間に対して言う役割の部署である。その厚労省が職員にサービス残業をさせている。ブラック企業が「法律の中でも、特に労働法は守らなくていい法律」と受け取るのも致し方ないことかもしれない。

                         (写真は不夜城の厚労省ビル)