雨宮処凛の「世直し随想」

              非正規の命


 2月、あまりにも痛ましい事件が起きた。新潟の菓子メーカー「三幸製菓」の工場で深夜に火災が起き、6人が死亡したのだ。

 死亡したのはアルバイトで働く60、70代の女性4人と、男性従業員2人。一報を受け、多くの人が、高齢の女性が夜勤バイトをしていたことに驚いた。

 その後、亡くなった4人の女性は、正社員は受けている避難訓練を受けていなかったことも明らかになった。元従業員によると、アルバイトには避難経路の説明もなかったという。

 報道によると、4人の女性は閉じた防火シャッターの前で心肺停止の状態で倒れていたという。迂回(うかい)扉はあったものの気づかなかったようだ。無事に逃げられた別の女性も非常口の場所を把握しておらず、社員がいなければどこに逃げればいいかわからなかったという(毎日新聞2月21日付)。

 日頃から働く人の安全がもっと考えられていれば、防げたはずの悲劇。報道を見ながら、自分自身がフリーターだった頃、一度も避難訓練を受けていないことに気がついた。ビルの中の雑貨屋やカラオケ、キャバクラなどいろいろな現場で働いたが、見事に一度もない。

 中には私が入店する前、入り口にガソリンを巻いて火をつけると脅す男が現れた飲食店もあったが、その後なんの対策もとられておらず、「そんな人がまた来たら焼け死ぬしかないからよろしく」と、軽い感じで焼死を求められていた。

 あの頃、私の命は軽かったと、つくづく思う。だからこそ、このような非正規差別がなくなってほしい。