雨宮処凛の「世直し随想」

             なぜ救えなかったのか


 昨年12月28日、痛ましい事件が起きた。

 東京の新宿・歌舞伎町で9歳の男の子がホテルの23階から転落死したのだ。

 男の子を突き落としたとして逮捕されたのは47歳の母親。「順番に飛び降りて無理心中を図ろうとした」と話しているという。

 母親は昨年8月にも無理心中を試みており、車中で男の子と7歳の妹に睡眠薬を飲ませ、自身も一緒に熱中症で死のうとしていたそうだ。が、発見され、一命をとりとめた。子どもたちは児童相談所に一時保護されたが、数カ月後、事件は起きてしまった。

 母親に何があったのか、詳しいことはわからない。私の周りからは、「なぜ救えなかったのか」と痛切な声が上がった。それは事件の2日前、このホテルのすぐそばの公園で、「女性による女性のための相談会」を開催していたからだ。

 相談会にはさまざまな悩みを抱えた女性たちが訪れた。家賃が払えない、コロナで失業し仕事が見つからない、夫の暴力や子育てで悩んでいる、等々。会場にはキッズスペースもあり、子連れの女性は子どもを預け、ゆっくりと相談することができた。弁護士やDV専門の相談員らがそろっていて、相談を受ける方も全員が女性。年末年始の4日間で400人近くが来てくれた。

 もし彼女がこの相談会に来てくれていたら――。事件の一報を聞き、ともに相談会をした女性たちとそう話した。もしかしたらすれ違っていたかもしれない私たち。どうしたら、必要な人に手を差し伸べることができるのだろう。大きな課題が生まれた。