北 健一 「経済ニュースの裏側」


強欲とその代償

 

 久しぶりに、朝刊が届くのが待ち遠しい気持ちになった。朝日新聞1月23日付から始まった大型連載「強欲の代償 ボーイング危機を追う」は、終わらない新自由主義の病巣をえぐるだけでなく、人間とは何かを問いかける圧巻の連載だった。筆者は江渕崇記者である。

 初回には、銀行投資マネージャー、ポール・ジョロゲさんが妻子に囲まれ笑顔を浮かべる写真が添えられている。ジョロゲと一緒に笑顔を浮かべる長男、長女、次女、そして妻は、もうこの世にいない。彼女たちが乗っていた米ボーイング社製旅客機「737MAX」が2019年3月10日、エチオピアの空港から離陸してほどなく操縦不能に陥り墜落したからだ。157人が亡くなった。

 5ヵ月前にも、737MAXはインドネシアで酷似した事故を起こし、189人が死んでいた。

 なぜ、ボーイングはそんな危ない飛行機を作ったのか。ジョロゲは投資のプロとして経営分析を進め、ボーイング社が「ものづくり企業」から、株主のためにカネを生む「金融マシン」に変貌していたと突き止める。

 連載はドラマのようだ。MAX事故の責任を追及していた米司法省が、約280億円の支払いでボーイング社の訴追を猶予し、和解を主導した連邦検事が合意翌日に退職し、ボーイング社代理人の大手法律事務所に天下ったことにも仰天した。

 利益優先と「空の安全」といえば、会社更生手続き中の日本航空(JAL)で、稲盛和夫会長(当時)が「利益なくして安全なし」という趣旨を述べたことが思い出される。元最高裁判事はコンプライアンス委員会に入って経営陣免罪に手を貸した。

 時はめぐり、岸田首相の「新しい資本主義」を含め、新自由主義の「反省」が表向き流行だ。JALも「安全安心」「サスティナビリティ」(持続可能性)を「JALビジョン2030」に掲げた。

 本物なのか、口先だけなのか。この連載のように、「鳥の目」と「虫の目」をもってウォッチすることがジャーナリズムの役割に違いない。

  (写真は「朝日デジタル」より)