賃上げと減税の両輪で

 

  経済アナリスト・森永卓郎さんに聞く


 新型コロナ第6波の中、春闘が始まっています。経済アナリストの森永卓郎さんは、中小企業があまねく賃上げできる環境をつくるためには、所得を直接上向かせる政策を政府に求めることが大切と述べ、労組に奮闘を呼び掛けています。

 

●中小は賃上げ税制使えず

 

 岸田政権の賃上げは参議院選挙向けのポーズでしかありません。「賃上げ税制」も、元々あった仕組みを少し拡充しただけ。中小企業の多くは使えません。

 その理由は、中小企業の3分の2は赤字で、法人税減税の恩恵は受けられないからです。事務作業の負担も大きく、専門の管理部門を持つ大企業ならともかく、中小企業にはその余力もノウハウもない。政府もそのことを十分に分かっているはずです。

 実は日本経済は、物価が下がり経済が縮小するデフレに舞い戻っています。消費者物価の総合指数は上昇していますが、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数は昨年4月からマイナスが続いています。

 ガソリンや食品など生活関連費目の価格上昇は、輸入品が投機で値上がりし、そのあおりで上がっているだけです。デフレが進むと下がる、政府統計の「GDPデフレーター」という指標は、昨年からマイナスが続いています。 

 

 

●消費税減税が最も有効

 

 長い歴史をみると、デフレの時は賃金が上がりません。日本の実質賃金が下がり始めたのは1997年からです。消費税率が3%から5%に引き上げられた年です。その後、2014年に8%に上がり、19年には10%となりました。消費税の増税とともに実質賃金は下がっています。

 当然、消費は冷え込み、それに伴って企業の売り上げが落ちる。結果、企業は人件費を下げざるを得なくなる。このようにずっと落ちて込んできたのが、この四半世紀でした。

 「負のスパイラル」(悪循環)を止めるには、消費税の廃止が公平で最も効果的ですが、5%への引き下げも有効です。長引くコロナ禍で皆生活が苦しいので、引き下げた5%の分は確実に消費に回ります。企業の売り上げは増え、プラスの好循環へと向かいます。

 ところが、財務省寄りの姿勢を取り続ける岸田政権は消費減税を「断固拒否」の構えです。特別定額給付金も子どもがいる世帯と非課税世帯にとどめました。雇用保険の増額など「ステルス増税」が続くことを考えると、負のスパイラルへの逆戻りが懸念されます。

 

●所得上向かせる政策を

 

 岸田政権の「賃上げ」政策は実際のところ、大手やITなどもうかっている企業だけが対象です。それではどうにもなりません。今はデフレだという認識をきちんと持ち、中小企業が賃上げしやすい環境をつくることが必要です。

 そのための方策は消費税減税が一番いいが、どうしてもいやなら所得税減税でもいいし、定額給付金の対象拡大でもいい。政府が所得を直接持ち上げる政策を行わなければ悪循環は断ち切れません。

 

 今春闘では、賃上げの要求・交渉と併せて、庶民の暮らしを支え、経済の好循環を促す効果的な政策を行うよう、政府につよく求めていくことが大切だと思います。