暇工作「生涯一課長の一分」

           パワハラ制するにパワハラ


 知人Kさんが勤務先から突然解雇通告され裁判を闘っている。Kさんは40代で中間管理職。解雇理由は「部下へのパワハラ」。だが真相は別のところにある。

 Kさんは正義感が強い人だ。よかれと思ったことは、経営者に対しても忖度せず発言する勇気もある。どんな組織でも、本当はこういう人こそが求められるのに、大概の経営者たちは従順なイエスマンだけを好む。

 Kさんはかつて労働組合の役員を務めたこともある。その際、会社から賃金体系の変更提案があった。特定の社員はアップするがその陰で多数の社員はダウンする内容だ。Kさん自身はアップグループに入っていたのだが、彼は敢然とその提案に反対した。「自分がトクするのになぜだ?…」眼前の利益だけが社員の行動原理だと信じる経営者とその同調者には到底理解できない言動だった。

 経営者がKさんへの解雇理由を「部下へのパワハラ」としたのは、「この理由なら世間も反対できないだろう」という小細工だ。だが、その会社にはパワハラ事件を裁く「パワハラ委員会」が設置されているのに、そこでの審議もなく、Kさんに弁明機会も与えられていないのだから牽強付会も甚だしい。

 パワハラとは優越的地位を背景に不当な圧力を加えることだが、それを咎めるために同じ手段を行使するとは論理矛盾であり、倫理にもとる。解雇とはパワハラの極限の形態なのだから。

 かつて、暇の同僚のR氏が上司から「お前は会社を辞めろ」とのパワハラを受け、裁判で勝訴した事件があった。このとき、R氏が勤務する損保会社の経営者はパワハラを行ったR氏の上司を庇い、裁判でもその上司を支援し、判決後もR氏に謝罪すらしなかった。R氏の上司が行ったパワハラ行為は経営者の本心だったからだ。だから、あり得ないことだが、このとき、もし会社がパワハラを行った上司を懲罰として「解雇」したらどうだろう?R氏は欣喜雀々、万歳と勝利の快哉を叫んだだろうか?いや、上司の解雇には絶対に反対したはずだ。上司も同じ労働者。会社がその生活権を奪おうとするなら、R氏も暇も、パワハラ問題はさておき、上司に連帯して会社とたたかう。それが働くもののモラルであり、あたりまえの論理だ。パワハラの正しい解決方向は、会社と上司がR氏に謝罪し、再び過ちを犯さないという誓約を職場全体に向かって宣言し、そのための方策を示すことだった。

 Kさんの場合も同様だ。会社が本気で「パワハラ」を憎むなら当事者の「解雇」で一件落着させようとするのは筋違いだ。それは「パワハラ」撲滅ではなく、Kさんの排除が目的だったという不当性の証明になるだけだ。