北 健一 「経済ニュースの裏側」


被告になって 

 答えているうちに腹が立ち、気が付くと会社代理人の弁護士と激しい議論をしていた。

 昨年12月1日、大阪地裁の法廷。うどんすきで名高い東京美々卯の解散、解雇の背景を探った記事(ダイヤモンドオンライン掲載)のため、「1100万円払え」と訴えられた私は尋問に臨んだ。

 訴訟を起こしたのは、東京美々卯がのれん分けした元にあたる美々卯(本社・大阪市)と同社の薩摩和男社長で、私のほか、ダイヤモンド社とY編集長も訴えられた(その後、Y氏への訴えは取り下げ)。

 ファンも多いお店の閉店は、「出汁文化」を守ってきた従業員にも常連客にも惜しまれ、再開が待ち望まれているという趣旨の記事のどこが、薩摩氏の逆鱗にふれたのだろう。被告になると費用と時間がかかる。朝も被告、夜も被告、寝て起きてもまだ被告。どうしても気が滅入る。

 取材で話を聞いた東京美々卯の板前さんたち(全国一般東京地本の美々卯分会組合員)は「本当のことなのに訴えられるなんて」と自分ごとのように気遣い、怒ってくれた。彼らの声を伝えた記事が高額訴訟に屈してしまえば、被解雇者の声を伝えにくくなる。それだけは認めるわけにはいかない。所属する組合や、関西MIC、大阪争議団共闘などの支援も心に沁みた。

 12月1日、東京美々卯の武田巻人元社長も勇をふるって証言に立った。分会結成の中心になった人だ。東京美々卯の役員になって大阪の会議に毎月呼ばれ、業績を報告させられたことなどを明かした。「私が社長になる時、薩摩会長は『お前が組合を作ったんだから、お前がつぶせ』と言ったので、『減らすことはできても、つぶせない組合を作った』と私は返した」

 武田さんの証言に、解雇撤回を求めてたたかう板前さんたちは目を潤ませた。

 国鉄でもJALでも美々卯でも、長く厳しい解雇争議は、仕事に打ち込み、仕事を愛し守ってきた者たちによってたたかわれる。彼女、彼らがいるから、私たちは記事が書けると改めて感じた。

 記事を書き、組合では相談に乗ってきた自分が被告になる。受難でもあるが、貴重な経験でもある気がする。世間も裁判所も、時に冷たい。それでも、権利と尊厳の回復をあきらめない歩みは続く。これからも、共にありたい。

  (写真は「東京美々卯」のうどんすき)