垣間見る投票権の実情

 

 

             町田 富士彦


 前号で投票立会人をやった経験を述べたが、その際、少し触れた「投票済み証」についてである。

立会というのは他人のやることを見ているだけだから、退屈である。知人からは、「一人一人の投票者を観察して、この人は何党に入れたかを推測していたら暇つぶしになるんじゃないか」と言われ、最初のうちはそれをやってみたが、推測なんてできない。そんなとき、「投票済み証をください」という声を聞いて、それから、ずーっと立会人をやっている間じゅう、「投票済み証をどう使うんだろう」と、考えていた。(いや考えるというより妄想していたというべきだろう。)

 選挙に行ったので会社に遅刻する。遅刻扱いされないために、投票済み証を請求しているんだろうか。朝、7時の投票開始まもなくにきた人たちは、電車の延着証明と同じように遅刻の理由証明として使う人がいくらかいることは理解できる。それにしても、提出しなければ遅刻扱いにするというというのは酷い会社だなあ・・・。

 しかし、9時、10時以降も、請求する人は続いた。夫婦と思しき二人が揃って請求している姿を見ると、親戚から頼まれたのだろうか。いや、このご夫婦は夫婦で小さな商売を営んでおり、大事な取引先から、特定候補への投票を指示されたんだろうか。その依頼を忠実に実行した証(あかし)として、投票済み証を提出するんだろうか。投票済み証は投票したことの証でしかなく、特定の候補者に投票した証明にはならないが、せめて「投票はしました」ということで、忠実度を示そうとするんだろうか…などなどと妄想は続いた。

 

 選挙が終わってから調べてみると…

 トヨタ労組は、選挙のたびに職場委員が、「『投票済み証』を早めに持ってきてください」と組合員に督促しているそうだ。表向きは棄権防止活動ということになっているが、同労組は組合員に推薦候補の後援会への加入を強要したりしており、実態は推薦候補へ投票するよう誘導するものだと推認される。

 職場委員というと、仕事の場では「係長」クラスが多く、一般社員にとっては仕事に関係するから、その依頼に応えないわけにはいかない。またトヨタのように労使一体の会社では、職場委員としての評価は仕事での評価にもつながってくるから、職場委員も必死になって回収するのだろう。

自民党にも同様の例がある。自民党岐阜県連は公示前の選対会議で国会議員、県議、市議らに「努力目標」とする枚数も示して、「投票済み証」を集めるように要請したことがあるそうだ。

 

 投票は個人の自由意思によるべきで、企業や団体、政党などが個人の投票を確認するために使うことは個人の投票の自由を奪い、利益誘導や買収に利用されるおそれがある。また、憲法が保障する「投票の秘密」を犯されるおそれがあるとも指摘されている。

この「投票済み証」は法律(公職選挙法)で定められているわけではなく、交付をしていない自治体もあるそうだ。交付している自治体はやめるべきだろう。

 この話を知人にしたところ、「『投票済み証』どころか、自分が書いた投票用紙の写真をその場で撮って、それを職場委員経由で提出させている大手の組合もある」という話があった。こうなると、明確に憲法違反、公職選挙法違反であり、犯罪である。