真山  民「現代損保考」


        中小・零細代理店整理をテコに事業費圧縮を進めるMS&AD

 

     

    DIAMOND・onlineがMS&ADの「決算書」を分析                  

 「MS&ADの人件費・代理店手数料は大リストラ不可避!独自試算で海外大手と戦える水準が判明」、「DIAMOND online」11月22日号に、こんな見出しの記事が載った。リードでこう述べている。

 

 「三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険を傘下に抱えるMS&ADインシュアランスグループホールディングスの目標は、海外大手保険会社と肩を並べること。目標達成のために必要なコスト削減額を試算したところ、想像以上に厳しいコスト削減が必要だという結果が算出された。社員の人件費はどれくらい削減され、代理店手数料はどのような影響を受けるのか明らかにする」

 

 「DIAMOND online」は、「MS&ADに必要なのは、人件費、ポスト、代理店の数と、それらにかかる費用の大幅な削減」だと言う。しかし、MS&ADは費用(事業費)すべてを削減するという見通しを立てているわけではない。同社が策定した今後30年度までの「三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損保の事業費と正味収入保険料の推移」によれば、以下のとおりだ。

 

 1.事業費のうち、保険引受に係る営業費及び一般管理費(保険の募集や維持管理のために使用した費用)は、2020年度実績の4050億円から25年度に3641億円と409億円削減し、さらに30年度には3596億円に削減する。

 2.一方、代理店に支払う手数料や集金事務費は、2020年度実績の5531億円から、25年度は5917億円、30年度は5884億円と、増加を見込む。

 

 MS&ADは代理店に支払う手数料や集金事務費が増えることについて、こうコメントしている。「事業費を構成する諸手数料および集金費は、正味収入保険料を1.5%成長させるために一定程度投下しなければならないコストであり、単純には減らせない。そのため試算では、25年度の正味手数料率(正味収入保険料に占める諸手数料および集金費の割合)は21年度並みの19.5%、27年度は同18.5%とした」 つまり、事業費の削減は人件費や物件費の削減、中でも人件費の削減に重点が置かれている。

 

         3年間の損害率と事業費率の推移

 保険会社の収益を見る指標として損害率と事業費率がある。損害率と事業費率を足した比率をコンバインド・レシオといい、100%(つまり保険料全体)からコンインド・レシオを引いた比率が収支残率で、保険会社の粗利益率ということになる。MS&AD社の直近3年間の国内損保業の損害率と事業費率は、次のとおりである。  

 損保は生保に比べ種目も多く、処理すべきデータも多いことから事務処理に手間がかり、その分事業費も高くつく。加えてここ数年頻発している異常気象災害に伴う巨額の保険金の支払いで損害率が悪化、損害率に事業費率を加えたコンバインド・レシオは95%を上回り、収支残率も5%を切る年度が続いている。

 さらに収支残率を圧迫する材料が控えている。もっとも影響が大きいと予測されているのが、100年に一度といわれる自動車のCASE革命、自動運転やシェアリングサービスが広がることによって交通事故のリスクが減り、保険に加入する人も減少する。今後は保険需要が細り、事業が縮小するという予測もある。

 そういう中で、11月19日、大手3メガ損保の21年度上期(4月~9月)の決算が発表された。国内で大規模な自然災害がなく、契約者へ支払う保険金は低水準だったこともあり、MS&ADも、上期における連結純利益は約1284億円と前年同期966億円の1.33倍、2021年度通期でも2300億円と、これも昨年度の1456億円を1.58倍と大幅に上回る見込みだ。

 にもかかわらず、MS&ADは、「コロナ収束の兆しで増える大企業の黒字リストラ」の一つに加えられようとしている。昨年11月、ブリヂストンが発表したリストラは、国内外22か所の事業所の閉鎖、従業員8000人という大規模なものだし、そのほかLIXILグループ、ホンダ、オリンパス、日本たばこ産業、パナソニックの黒字リストラがある(日刊ゲンダイ 10月28日)。

       

      旧大東京系の自動車整備工場代理店を淘汰?

 一方、代理店手数料などについてもリストラは進む。MS&ADが代理店手数料について増加を見込んでいると表明しても、それはすべての代理店の手数料がアップすることを意味しないし、代理店優遇策への転換でもない。狙いはむしろ逆で、中小・零細代理店の整理淘汰にいっそう拍車をかけることだ。整理淘汰によって手数料率が低い代理店の契約が、より手数料の大きい代理店に集まれば、損保会社が支払う全体手数料は高くなる理屈だが、それでも、代理店の整理淘汰が保険会社に与える大きなメリットは大きい。代理店手数料などの一時的増加はそのプロセスと一面的数値に過ぎない。

 そして、具体的に廃業や、他の大手プロ代理店や金融機関の別働体代理店との合併を迫られるのは、あいおいニッセイ同和損保に属する代理店、中でも旧大東京火災時代から代理店業を続けてきた整備工場代理店や、旧大東京火災や旧同和火災時代からの中小・零細の代理店であろう。「DIAMOND online」もこう指摘している。

 「あいおいの正味事業費率は、大手損保4社の中で最も高く(21年度予想で35.1%)、MS&ADの正味事業費比率削減の足を引っ張っている。要因は中小代理店が多いことに加え、全国に小規模な営業拠点を設けていることだ。そのためデジタル化などのコスト削減効果が出にくく、保険引受社費や代理店手数料などが他社と比べて高くなってしまう」

 そこで、あいおいニッセイ同和損保は、22年4月から導入する「中核代理店制度」によって、中小代理店の大規模代理店への吸収合併を進めると同時に、中小代理店が存在する営業拠点の業務の一部を、大規模な代理店に引き継いでもらうことをもくろむ。これによって、中小・零細代理店の整理・淘汰、営業店舗の縮小(店舗テナント料という物件費の圧縮)の両方が図られる。まさに一石二鳥というわけだ。 

 こうして「海外大手と戦える損保」を目指して、弱者切り捨ての際限なきリストラが進む。