暇工作「生涯一課長の一分」


        「年齢差別」しない誓約どうした?


 ある年齢に達すると、ただそれだけの理由で賃金が大幅にカットされる。いまどき、多くの企業に見られる身勝手な人件費抑制制度だ。

 これは明らかな基本的人権の侵害だ。そう誰もが思っているが、実態が既成事実化してしまって、もう今さら、という気分が蔓延していることも事実だ。

 あらためて、三井住友海上の例を見よう。55歳になると、役職や仕事内容はそれまでと同じなのに、給料だけが減額される。全域社員か地域社員かという社員区分、部長か課長か、あるいは主任かという役職区分によって若干の違いはあるが、減額幅は年収換算で3割前後だ。働き盛りでこの急激な落差。自分の力不足や失敗によるダウンなら、それなりに納得もできるというものだが、年齢だけは自分の責任ではないからどうしようもない。

この実態に問題意識を持ち、諦めず、社員たちに呼びかけのビラを配布しながら、たたかいを挑んでいる人々がいる。

 「三井住友海上は年齢による差別禁止を、世間に向かって公言し、自らに課しているんです。なのに、平気でそれを反故にしていることが許せないのです」

 そう憤慨するのは三井住友海上の社員・Fさん。たしかに、会社のホームページを見ると、「人権基本方針」として次のように世間に向かって(高らかに)「差別の禁止」を謳っている。

『あらゆる事業活動において、基本的人権を尊重し、人種、国籍、性別、年齢、出身~などによる差別を行いません』

 年齢差別自体が明らかな基本的人権侵害だが、それを、あらためて「しません」と内外に公表・誓約した上での公然たる背反だから、その罪は一層重いのではないか。保険会社と契約者との間は信頼を前提に「約款」という約束事で結ばれているが、その信頼が疑われてもいいのか。

 

 「わが社はお客さまには誠実に約款通りの対応をさせていただいていますよ。えっ?差別禁止の誓約と年齢による給与ダウン?まあ、あれは当社の社員に対する待遇問題ですから。お客様への対応と社員へのそれは区別して考えております。その上、ウチの社員はモノわかりがよく事業活動のためなら自らの犠牲を厭いません。それがなにより証拠には、社員の多数を占める労働組合からも、その上部組織である連合などからも、差別とか、人権とか、そんな大げさな指摘や抗議を受けたこともありません」

会社がうそぶく声が聞こえてくる。

 社員の待遇などへの対応はホームページにいう『あらゆる事業活動』には当たらないというのかもしれないが、この言い抜けには無理がある。

 こんな人権問題でも、会社批判を全く行う意思のない多数派労組と上部組織の連合。そのチェック機能放棄が実態を一層深刻化させている。だが、めげずに正義の声を上げ続ける少数派労組の人々の存在もある。それこそが希望だ。(写真は全損保三井住友支部のビラ)