今月のイチオシ本


      『朝日新聞政治部』鮫島浩     講談社 

                       

          岡本 敏則

 


 新聞や出版の活字分野の凋落が続いている。各新聞の発行部数を見ていこう。1999年と2022年9月の部数の推移。「読売」1023万376部→667万2823部、「朝日」829万4751部→399万3803部、「毎日」397万3163部→187万1693部、「産経」198万465部→100万8642部、ちなみに「日経」の今年9月の部数は170万部、「東京」は38万部。

 

 「朝日」がリベラル派というのは本当だろうか。確かに安倍元首相は毛嫌いしていた。右翼が曲がりなりにもまとまるのは「反朝日」という一点だというし、桜井よしこはじめ右翼の論客は産経からの脱皮を切望し、「朝日」に書くことを切望している。以前は本多勝一(1932~京大卒)というスター記者がいて高校時代の1964年、「朝日」紙上で連載された「カナダ・エスキモー」は毎日一番に読んだ。そのあと「ニューギニヤ高地人」「アラビヤ遊牧民」と続き、ベトナム戦争を石川文洋カメラマンとのコンビで現地報告した1968年「戦場の村」は衝撃的だった。本多勝一が在籍している間「朝日」は大丈夫だと言われていた。筑紫哲也(1935~2008早大卒 本多と同期)も「朝日」の記者だったし、確かに気骨ある記者はいた。しかし「朝日」全体ではどうだったか。

 筆者は20年前「朝日」の購読をやめた。現在の情報源は主に新書をはじめとした単行本、月刊誌、フェイスブック、ツイッター、ブログなどSNSから。テレビニュースはNHKBSの各国で放映されているニュース(英・独・仏・伊・西・露・中・韓・印など)で情報を得ている。同じ事件でも国によって切り込む角度が違う。ドイツ放送では、日本のニュースの場合、中野晃一上智大教授が英語でコメントしている。日本で中野氏のコメントなんか聞けないだろう。

 

 本書の著者鮫島浩氏(1971年生)は京大法学部卒業後朝日新聞社に入社。つくば、水戸、浦和の各支局を経て政治部に所属。いわゆる政治記者、菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野肇、町村信孝の番記者をつとめ、1999年から政治部次長(デスク)、2012年に調査報道に専従する特別調査部(2021年春廃止)デスクになり、2013年「手抜き除染」報道(福島での除染作業を請け負った業者が、山中に汚染物を不法投棄)で新聞協会賞を受賞。2014年に福島原発事故をめぐる「吉田調書」報道(福島第一原発爆発事故当時の所長吉田昌郎氏〈2013年死去〉が政府の事故調で証言したA4判400頁に及ぶ調書をもとにした記事。鮫島氏の弁明も届かず圧力に屈した「朝日」は誤報と認定)で解任され、2021年希望退職に応じ、ウエブメディア「SAMEJIMATIMES」を運営している。

 登場人物は朝日新聞社社長、役員、編集局長、記者など実名で登場。それにしても「朝日」は東大閥が牛耳っていることを改めて実感。10年ほど前、朝日新聞関係者が嘆いているというニュースがあった。内容は「今年の入社組に東大卒が一人もいない」というものだった。そのほかに高校の同窓閥(地方の№1高校、東京の有名進学校)もある。このエリート主義が「朝日」を凋落させたと言ってもいいだろう。出世競争、保身、まさに霞が関の官庁と同じだ。読んだ感想は、まあこんなものだろうということ、ホント今の日本は「長期腐敗」列島(白井聡)だ。本書から、いくつか紹介する。

 

 ◎サツ回り=駆け出し記者は特ダネをもらうに必死だ。あの手この手で警察官にすり寄る.会食を重ねてゴルフやマージャンに興じる。風俗店に一緒に行って秘密を共有する。警察官が不在時に手土産をもって自宅を訪れ、奥さんや子供の相談相手となる。無償で家庭教師を買って出る。とにかく一体化する。こうして警察官と「癒着」を極めた記者が特ダネにありつける。

 ◎総理番=官邸と内閣記者会(通称官邸記者クラブ)の取り決めにより、共同通信と時事通信の総理番が各社を代表して総理の黒塗りの車列に加わり同行できる。共同・時事は電話やメールで各社と行き先を共有する。各社の総理番は自社の車で駆け付け、総理が料亭やホテルで会食中はその前で待ち続け、店を出てきた人に片っ端から「総理と会いましたか」「なにを話しましたか」と尋ねる。

 ◎細川與一元財務省事務次官=富山から東大へと上京した細川氏は東京有名私立校出身のキャリア官僚を「シティボーイ」と呼び、ライバル心を隠さなかった。事務次官を競った同期は麻布出身の「シティボーイ」だった。彼との出世競争に勝ち抜いて事務次官(2004~2006年退官)になった時、本当に嬉しそうだった。

 ◎外務官僚=外務官僚は諸外国の外交官や学者、ジャーナリストらと公費で豪勢な社交を重ねて情報交換する日々を送っており、「割り勘」文化はない。一本2万円はするワインを平気であけた。彼らは「新聞社の経費で落とすんでしょ」と勘違いしているに違いない。いや気づかぬフリをしているのかもしれない。「霞クラブ(外務省担当)はお金がかかるよ」先輩に忠告されていたが、その通りだった。これには参った。

 ◎外交=ある外交官は私にタメになる話をしてくれた。「外交に『決着』はないんです。どんな同意をしても必ず課題は残る。外交は『決裂』か『継続』のどちらかなのです。『決裂』したら国交断絶か戦争になる。これは外交の失敗です。『継続』さえしていれば国交断絶や戦争は避けられる。『継続』こそ外交の成功なんです」。