守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

                     


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 

                   


 上司の激励

 

 これを書いている今は、国葬予定の一週間前だ。

 職場で上司に「27日は有給を取りたい」と言ったら、どこに行くとも言っていないのに、にっこり笑って「頑張って来てね」と励まされた。保守王国群馬に住む友人ですら、かかりつけ医から「国葬反対集会に行ったら私の分まで反対して来てほしい」と檄を飛ばされたそうだ。先日の渋谷デモでは沿道の若い人が手を振ってくれたし、飛び入りで隊列に加わる人もいた。市民の意識は確実に高まっている。

 

 安倍元首相の殺害事件は、思いがけず旧統一教会と自民党政治の癒着を暴き出した。政治と宗教の汚れたつながりは絶対に明らかにされ、断罪されなければならない。カルト禁止法を作ることも必要だ。しかし、法律を作るだけでは次の被害者が生まれることを防げはしないと思う。いずれまた別のカルトが法の目をかいくぐって現れるだろう。一番大切なのは、誰もがカルトに縋らなくてすむような社会にすることだ。

 カルトにはまってしまう人が多いのは、この国に不幸な人が多い証拠だ。生活が苦しかったり、いじめやパワハラに悩まされたり、心を開ける家族や友人がいなかったり、将来に希望が持てない人ほどマインドコントロールされやすい。冷静に考えれば、壺や印鑑を購入することで人生が変わるなんてインチキだと気付くはずだし、自分の子どもの食費や教育費までつぎ込んでしまうはずがない。憲法に保障された生存権や幸福追求権がすべての市民に行き届き、病気や貧困や孤独で心がくじけそうになった時にも支えてくれる公的制度やコミュニティーがあれば、カルトに頼らなくとも人生に目標や喜びを見い出せるだろう。しかし、現状では憲法13条も25条も知らない人が多い。いや、意図的に知らせずに育ててきたのだ。

 そういう土壌を作ってきたのは戦後の自民党政権、ことに8年も続いたアベ政治だ。大企業ばかりを優先し、真面目な労働者が報われない社会。不運に見舞われた人を自己責任と切り捨てる社会。努力しても明るい未来が見えてこない社会。気に入らない人はヘイトやバッシングで叩き潰す社会。格差と分断を助長したアベ政治は、カルトの餌食を生み出す構造を固定化してきたと言える。

 そんな安倍元首相を国葬で追悼するなんてとんでもない!法的根拠もなければ、値する功績もない。国民の代表者である国会の議論も経ずに国葬を決めた岸田政権は、アベ政権と同じ民主主義の破壊者だ。

 

 いまから国葬中止と言えるほど賢明な首相ではなさそうだから、きっと意固地になってごり押しするだろう。でも、国葬を止められなかったとしても悲観することはない。主権者を無視する政権に未来はない。国葬強行は、私たちの正しさをより明らかに示すだろう。