雨宮処凛の「世直し随想」

            事件5年後の新事実


 「あの事件」から、この夏で5年となった。

 それは2016年7月26日に起きた相模原障害者施設殺傷事件。元職員の植松聖(当時26)が深夜の施設に押し入り、19人を殺害、26人が重軽傷を負った。

 「障害者は不幸をつくることしかできない」「お金と時間を奪っている」

 昨年1月に始まった裁判で、植松はそんな持論を展開し続け、わずか16回の公判で死刑判決を言い渡された。そうして昨年3月末、死刑は確定。現在、植松は死刑執行を待つ身である。「障害者はいらない」と主張し、大量殺人を実行した植松に対して下された「お前こそいらない」という死刑判決。あっという間に終わった裁判で、事件の真相が解明されたとは決して言えないことに疑問を持つのは私だけではないはずだ。

 そうした中、ノンフィクションライターの渡辺一史氏が月刊「創」8月号で事件が起きた津久井やまゆり園を運営する「かながわ共同会」元職員と対談している。それによると、植松は同僚らから「バカ植松」と呼ばれ、激しく陰口をたたかれていたそうだ。一方、上司によるパワハラともとれるような内部資料も紹介されている。「あれだけ職場でバカにされたら、そらおかしくなるよ」と言っていた職員もいるという。

 しかし、植松は裁判などで上司や職場への不満を、私が知る限り一度も吐露していない。もしかして、職場での冷遇に対する憤りが利用者に向かったのだとしたら。やりきれないが、すでに確認するすべはない。

 死刑が確定した後に発覚した新事実に、今、モヤモヤしている。