北 健一 「経済ニュースの裏側」


歌を追い越した現実 

 「オリンピックを始める前に、言っておきたい~♪」と歌う「『関白宣言』→東京五輪『開幕宣言』」が話題だ。 伝でん虫さんがユーチューブにアップ、8月5日時点で視聴は2万回に迫った。

 さだまさし「関白宣言」の替え歌で、菅首相や、「ぼったくり男爵」IOCバッハ会長を風刺している。「医療崩壊はしない……ま、ちょっと覚悟はしておけ」という一節があるが、現実が歌を追い越してしまった。

 政府は8月2日、新型コロナ感染者が急増する地域では中等症・軽症の患者は入院させず、「自宅療養」に転換する方針を打ち出した。

 新型コロナでは、患者の症状は急激に悪化することが多い。入院させてもらえなかった患者の死亡が増えていくことが強く懸念される。

 入院すべき患者が入院できない。それを「自宅療養」とは、まるで、敗北を「転進」と言い換えた戦時中の大本営発表だ。批判が噴出するのも当然だろう。

 パンデミックの最中、東京都は八つの都立病院と六つの公社病院を地方独立行政法人(独法)に転換する条例を、9月都議会に提案しようとしている。

 公的医療を持続するための改革だと、表向きは説明されている。だが、都病院経営本部の幹部が小池知事にレクチャーした資料によると、独法化の真の狙いは「都の財政負担を軽減」。都民のいのちを守ってきた都立病院への財政支出を削ろうというのだ。

 採算重視の独法ではコロナ対応が難しいことは、都道府県立病院では初の独法化を実施した大阪の現状が物語る。

 日夜、コロナ患者の対応にあたる大阪府立医療センターの看護師は「私たちは医療者である前に、感情をもった一人の人間です。自己犠牲や奉仕の精神だけでは現場は良くなりません。患者さんのためにもなりません」と話し、安全・安心のためには「安心して働ける職場環境が必要です」と訴える(ユーチューブ、「都庁職病院・衛生局支部TV」8月3日アップ)。胸を突かれた。

 原発事故も感染症も、アンダーコントロール(統制)には程遠く、政府の失敗は覆い難い。苦い現実を見据えながら、医療現場への支援を強めなければならない。