守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

             続けてきた甲斐があった


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 


 毎月第二月曜日の18時から首相官邸前で「安倍・菅政治を許さない!首相官邸前行動」が行われている。もともとは「桜を見る会」疑惑を徹底追及しようと始まったのだが、その後検察庁人事問題や学術会議問題などが起き、それらすべてに抗議するために上記のような名称に変わった。普通の市民が思い思いに政治や労働問題、コロナ対策、五輪強行などに対して抗議のスピーチをし、一緒に歌をうたう。参加者20~30人の小さな集会だがコロナ禍でも続け、今月で32回目になる。ご多分にもれず平均年齢の高い集まりなのだが、今年五月から一人の青年が参加し始めた。

 

 Tさん、33歳の男性。介護の現場職をしているということで、初めは控え目な言葉で人手不足や低賃金による生活苦などの改善を訴え、さらに政府のコロナ禍対策は先の大戦時同様、棄民以外の何物でもないと糾弾した。「菅政治を絶対に許さないぞ!」という言葉には力がこもった。初々しいスピーチにひときわ大きな拍手が起こったのは、こんな若者が来てくれたことが、常連参加者にとって何より嬉しいことだったからに違いない。 

 Tさんは福祉系の大学を出て、介護の仕事を始めて9年半になるという。現場は常に人手不足で、仕事のきつさに見合う賃金が支払われていない。月に数回は夜勤をやらないと生活できるだけの収入が得られない。社会的に重要でやりがいのある仕事なのだから、公からの事業所報酬を増やして賃金を底上げすれば、介護の領域で働きたい人は増えるだろう。マッスル・スーツのような腰痛の予防になる機械や道具を積極的に導入して、労働者の身体的負担を軽減することも必要だ。自分も腰痛に悩んでいる。それなのに、政府がオリンピックや軍事費など、国民のためにならないことにばかり税金を使っているのは納得できないといったことを遠慮がちな口調で話してくれた。

 以前から政治に興味を持って新聞やテレビを見ていたが、なかなか自分から行動する機会がなかったけれど、自公政権に対する不信感がつのり、自分が動いて世の中を変えたいと思い、人づてにこの集会があることを聞いて参加し始めたそうだ。年齢の高い人ばかりの集会に来るのに抵抗はないかと聞いたら、「こういう活動をやってくれる人がいるだけでありがたい」と言ってくれた。こんな青年がいるのだと思うと、私たちも続けてきた甲斐があるというものだ。

 若者と高年齢層の間には大きな分断があるが、若い人たちから「この人たちがいてくれて良かった」と思ってもらえる活動をすることで世代間のギャップを埋め、手を取り合って社会を変えて行きたい。先は長いけれど、いつかきっとできる。