雨宮処凛の「世直し随想」

            競争しない生き方


 中国で「寝そべり族」が話題だという。オンライン雑誌「クーリエ・ジャポン」の記事で読んだ。寝そべり族とは、結婚せず、子どもも持たず、マンションも車も買わず、起業もせず、なるべく少なく働き最低限の生活をする人々。若者たちに大人気で、当局を不安がらせているという。

 少し前、中国の若者を表す言葉と言えば「996」だった。朝9時から夜9時まで週6日働くという長時間労働を指す言葉だ。そんな過酷な働き方の中、「もう競争に疲れた…」とばかりに寝そべり始めた中国の若者たちに、思わずエールを送りたくなった。

 翻って、日本では90年代後半に、極力働かず、少なく浪費する生き方を目指す「だめ連」が登場。資本主義的生き方を「降りた」若者たちのライフスタイルとして注目された。

 同時期、韓国でも似たようなグループができている。それは「ぺクス連合」。ぺクスは「ニート」のような意味だ。

 このように、同じ東アジアにある日本や韓国では、すでに90年代から若者たちによって始まっていた「寝そべり」。それが中国で始まった意味は大きいと思うのだ。

 ちなみに私は「だめ連」「ぺクス連合」どちらにも交流がある。「競争」とか「出世」とか「金持ちになる」とかと無縁な友人たちと交流があるからこそ、自分が生きていけていると本気で思っている。競争に勝ち抜き、生産性が高くないと生きる価値がないとさえ言われる世の中で、「そこから降りる」生き方がもっと広がればいいのに。そんなことを思った。