天野ともよ「潮風短信」


             役職定年の亜希子さん 

 コロナ対策用のプラスチック板越しに「役定?何それ〜役職定年?!ってなに?」と市役所に勤めるひろ子ちゃんが目を丸くして聞いてきた。

 私は伯母のお見舞いで市役所の近所まで来たので、同級生で市役所に勤めるひろ子ちゃんとランチの約束をしたのだった。お互いの近況を話し、職場の話をした。

 今年の4月から職場に来た、主任の亜希子さん55歳のことである。

 仕事はテキパキとこなし、後輩への物言いもはっきりしている。それはそれでいいのだか、自分の都合というか、女性同士で何となく気遣いあっている部分、例えばお昼の電話当番など在宅勤務や休暇で前半、後半の人数が偏ることがあるのだが、「ちゃんとバランスよくなるように考えて休んでください!」とか、そんなのいちいち考えてたら在宅も休みもむずかしくなってしまう。居るメンバーで臨機応変にやればいい話なのにさ。たまたま自分が前半の当番だったのが後半になったからってねぇ。

 課内でやっている勉強会も自分は来たばかりだから講師はできないと強硬に断るし。別にすごいことを話す必要もないのにね。担当職の私からすれば、役定でも役職は上なんだからズルいな〜と思えちゃうんだよね。

自分に都合のいいことには鼻が効くっていうかちゃっかりしてるのがいやだなあって見えちゃうの。それに電話口でもう役定だから担当職より給料が少ないとか言われちゃうとね〜。私から言わせれば役職定年だからって担当職より給料が少ないわけじゃないもん。そりゃランクとかによるけど基本、平均的な評価であれば担当職より多いはず。

 あ、役職定年ってね、昔定年が55歳だった頃の名残、55歳から給料が減るのよ。今や定年は60歳、さらに定年後65とかまで働く時代に変でしょ。

55になったからって業務内容がかわるわけでもないし、昔は専任職とか社内の電話帳に表記があったから、周りも少しは気遣いあったけど、今はそれもないから、ちゃんと年齢知ってる人達以外はわかんないのよね。

 「あ、役職定年ってそういうことかあ、何か時代に合ってないよね。55歳からも仕事の量が変わらないなら、54歳の時のままの給料でいいんじゃないのかな?」とひろ子ちゃん。

 だよね、給料が下るせいで職場に不協和音が出るんだよね。電話口とかで言われるとショックだよ〜と私。

 そんなことを話しているうちにランチの時間が迫り、ひろ子ちゃんは職場に帰って行った。

 その後ろ姿を見送りながら、私はコーヒーを飲んでため息ひとつ。