北 健一 「経済ニュースの裏側」


株主主権論の危うさ

 

 「日本は米国に次ぐアクティビストの第一の『遊び場』となっている」

 フランス下院財政委員会調査団が報告書でそう指摘したことを、上村達男・早稲田大学名誉教授のインタビュー(「日経ビジネス電子版」4月28日付)で知った。

 上村氏が問題視するのは、英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズによる買収提案から車谷暢昭社長の辞任に展開した東芝問題だ。

 「物言う株主」と対立した車谷社長はCVCの元日本代表。窮状を救うかのように、車谷氏の古巣CVCが東芝買収、非上場化を提案した。

 それに対し取締役会の永山治議長(中外製薬名誉会長)が待ったをかけ車谷氏が辞めたことで、経営私物化が寸前に防がれコーポレートガバナンス(企業統治)が機能した――。そんな美談も流布されるが、上村氏は「ファンドにとって想定通り」だと喝破する。

 東芝は2017年、ファンドなど約60社の海外投資家を引き受け手に約6千億円を増資した。半年後、虎の子だった「東芝メモリ」を売って得た1兆円のうち7千億円で自社株を買い、株価を上げてファンドに報いた。

 車谷氏の後任、綱川智社長は「すべてのステークホルダー(利害関係者)との信頼関係改善に全力で取り組む」と語り、1500億円の株主還元を決めた。「すべてのステークホルダー」と言いながら労働者も取引先も二の次で、ファンドなどうるさい(物言う)株主に目が向いているのは一目瞭然だ。

 株主が会社経営を監視、統制するしくみをガバナンスと呼ぶ。米国型ガバナンスの原型では、株主は個人、市民だった(三和裕美子・明治大学教授、『図説 企業の論点』旬報社)。今、日本企業の上位株主リストにはファンドが並ぶ。

 上村氏は、「日本は、匿名で人間的要素の低いファンドを無条件に人間並みに扱いすぎているのです」(前掲インタビュー)と言うが、説得力がある。今、単純な株主主権論には、会社を〃ファンドのおもちゃ〃にする危うさがある。これからの企業統治とそのルールは、労働者や取引先をはじめとする、多様なステークホルダーとの関係の重視が欠かせない。