北 健一 「経済ニュースの裏側」


日雇い派遣解禁の裏で

 

 「しっかりと答弁してもらわないと(国会の)委員会が止まりますので、たいへん迷惑でございます」

 4月28日、衆議院厚生労働委員会で田村憲久厚労大臣は、看護師の日雇い派遣問題での川内博史議員(立憲)の質問にろくに答えない内閣府幹部に苦言を呈した。

 コロナ禍での看護師不足を「追い風」に看護師の日雇い派遣が解禁された。コロナ対応のための特例にも見えるが、議論が始まったのはコロナ前の2018年、内閣府が受けた要望に始まる。

 要望したのはNPO法人「日本派遣看護師協会」だが、提出はNPO法人認可の2カ月前。認可さえない団体の要望が、トントン拍子で通った形だ。

 同法人の住所を訪ねてみるとマンションがあり、管理人は「そういうところは入っていませんね」と話した。

 連絡先に電話してみると留守電で、男性から折り返しがあった。「その住所は郵便の受発信場所です。行政書士から『そういうNPOはいっぱいある』と聞きました」。NPOの運営資金は「人材会社や事業会社からご寄付いただいています」とのこと。

 協力する会社の一つが株式会社スーパーナースだが、同社取締役の滝口進氏は13~16年、規制改革会議の専門委員を務めていた。『日刊ゲンダイ』ネット版4月23日付で、滝口氏はこう語っている。

 「看護師の日雇い派遣について提案しようと事務局に相談したら、規制改革会議メンバーで看護師派遣の会社の責任者がそうするのは、議論を巻き起こすので好ましくない、と。……当事者であるNPO法人から提案した方が、議論が進みやすいだろうと考え、我々は手を引きました」

 規制改革で利益を得る人材会社が表に出るといろいろ言われるから、「NPO法人から提案」する形をとったのだろうか。川内議員は国会で、「これ、規制改革なのか利益誘導なのか、紙一重ですよね」。規制改革会議委員も営利企業もNPOも連携した我田引水に「規制改革」のラベルを貼ったかのようにも見える。

 モリカケはじめ、既視感ありありの光景ではある。だが看護師の雇用形態は、働く者の権利はもちろん、人の命にも関わる。「規制改革」を掲げたゴリ押しに、厚労相も内心、思うところがあるのかもしれない。