上村雄彦横浜市立大学教授に聞く


企業増税は世界的流れ

 

 バイデン米政権が4月、法人税の増税や多国籍企業への課税強化を柱とする税制改革方針を発表しました。大企業や富裕層を優遇した「トランプ税制」の否定にとどまりません。国際税制に詳しい上村雄彦横浜市立大学教授は「グローバル企業の税逃れを許さない世界共通の仕組みをつくる上で画期的な動きだ」と指摘します。上村教授に話を聞きました。

 

●増税へかじ切るバイデン政権

 

 世界各国は海外から企業を誘致するために、あるいは自国企業を国内にとどめ続けるために、法人税を下げ続ける「底辺への競争」を激化させてきました。その結果、多くの国々で税収が落ち込んで財政不足を招きました。そこに新型コロナの世界的まん延です。米国も例外ではなく、財政は火の車。バイデン政権はついに法人税増税にかじを切りました。

 しかし、国内で増税するだけでは、企業はタックスヘイブンなど低税率やゼロ税率の国へ逃げてしまいます。そこで今回、世界的に税逃れを許さないための仕組みも併せて提起しました。その一つが、各国共通の最低税率(法人税)を一律に設定することです。さらに、デジタル課税の対象を拡大し、多国籍企業全体への課税を強化する手法も盛り込みました。

 

●多国籍企業の税逃れ阻止へ

 

 実は、最低税率一律設定と多国籍企業への課税強化は、以前から経済協力開発機構(OECD)で議論されていました。トランプ前政権は反対しましたが、バイデン政権が賛成へ方針転換したことで、今年半ばには合意に至る可能性が高まっています。

 GAFAと呼ばれるIT系大手、例えばアマゾンは日本で膨大な利益を上げながら、法人税はほぼゼロです。国内に支店などの拠点がなく、配送センター(倉庫)には税をかけられない国際税法の間隙(かんげき)を突いたためです。

 こうした税逃れを防ぐために検討されてきたのが、デジタル課税などの多国籍企業課税で、実現に近づいています。

 

●課税への姿勢問われる日本政府

 

 日本も米国に合わせて法人税率を下げたことが一因で、財政赤字に苦しんでいます。コロナ禍への対策も思うに任せない状態です。しかし、これ以上、消費税を上げるのは困難です。米国にならって法人税を上げるか、デジタル課税などに賛同するかが問われています。

 

 幸い、政府税制調査会の委員など、政府に近い学者からも金融取引税などを提起する動きが出始めています。先行きが見えないコロナ禍の下、必要な財源を確保するための方策を真剣に考える時が来たように思います。