「中国との向き合い方」


軍事ではなく自立外交を

慶応大学名誉教授 小林 節 

 最近、海洋進出の動きを強め、南シナ海などで軍事演習を行う中国。日本の安全にとって「脅威」という論調も少なくありません。平和憲法を持つ国として、こうした事態をどう見て、対処したらいいのか、小林節慶応大学名誉教授に話を聞きました。

 

●覇権主義を強める中国

 

 中国は、新疆ウイグル自治区や香港で人権抑圧を行っており、専制政治の様相を強めています。併せて、私は帝国主義的覇権主義と言っていますが、領土拡張を目指す姿勢が目立ってきました。

 自民党内部や周辺には、こうした動きに軍事で対抗すべきという論調があります。自衛隊の「敵基地攻撃能力」保有も同じ文脈で語られることがあります。

 中国の覇権主義の危険性は、その通りでしょう。だからといって、日本が軍事で対抗するのがいいかといえば、それは違います。日本はかつて中国を侵略した事実があるだけに、軍事的に対抗すれば、彼らを一層刺激するだけです。まずいやり方、愚策です。

 

●米国に追従せず独自の道を

 

 懸念されるのは、米中対立のあおりで、米国の2軍となっている自衛隊が「米国の敵は自分の敵だ」とばかりに動きだすことです。 愚かであり、日本国憲法にも反します。第9条がある以上、日本は高い経済力、技術力、人的能力を生かした専守防衛に徹するべきで、守りを固める能力をこそ高める必要があるし、できるのです。

 日本からカネを吸い取る吸血鬼のような米国に、いつまでもつかまっていてはいけない。米国の属国に甘んじることなく、自立して独自の外交を展開すべきではないでしょうか。

 

●世界から尊敬される日本へ

 

 グローバル化が進む中で、世界のあちらこちらに独裁的な国が出現しています。中国だけではありません。

 そんな中で日本が存在感を示せるとすれば、軍事や強権によってではありません。傲慢(ごうまん)にならず、経済と文化の力で世界から尊敬され、手本になる道です。その方向で日本を再生させなければなりません。

 国連で拠出金に見合った発言力や影響力を高め、中国に対し「覇権主義や人権抑圧は良くない」とはっきり言う。それを国際世論にしていくやり方こそ、日本国憲法を持つ日本にふさわしいと思います。 

 

 菅政権は、事実上の大型空母や長距離巡航ミサイルの導入などを2021年度予算に盛り込みました。敵基地攻撃能力を強化するためですが、小林節慶応大学名誉教授は「憲法9条2項に反する」と批判します。

 敵基地をたたくしか日本を自衛する手段がないならば、それを必要最小限の自衛力とみることも不可能ではない、と小林氏。

 しかし、「憲法9条2項は軍隊の類と交戦権、つまり国際法上の戦争の条件・資格を認めていない。だから、海外で軍事力を行使したら山賊や海賊と同じになる。敵基地攻撃能力の保有は、9条2項が禁じる『戦争』の準備であり、憲法違反だ」と指摘。

 しかも、他国に不要な脅威を与えるだけでなく、戦費破産を招く恐れがあるなど、政策としても愚かだといいます。