Viva, フーテン!


守屋真実

もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 


 またまた素敵な人に出会ってしまいました。

 

 先月号の原稿を読んだ編集長の伴さんから、「あなたはフーテンの寅さんのように出会いの多い人だ」とのコメントをいただいた。寅さんに例えられるのはうれしい。私にもフーテン的な要素があると思う。足の向くまま、気の向くまま歩くのが好きだ。興味を持ったら知らない人にでも話しかける。実際、話しかけたくなる人になぜか出会ってしまうのだ。

 

 三月末の金曜日。首相官邸前の信号が青に変わるのを待っていた。道路の向こうには仲間たちが三々五々集まり、バナーやプラカードの準備をしていた。そのそばに一人の男性。「あれ?あの人、そっくりだけど、まさか…」

 横断歩道を渡ったら、そこにいたのはまさしく本物の松元ヒロさんだった。思わず「私、ファンです!」と握手を求めそうになってコロナのことを思い出し、慌てて肘をつきだしたら、ヒロさんも差し出しかけた手を引っ込めて肘タッチをしてくれた。とても気さくな人だ。あの朗々とした日本国憲法前文の暗唱から、体格の良い人をイメージしていたのだが、思っていたよりずっと小柄な人だった。

 昨年十月に練馬で行われた公演は、ウルグアイのホセ・ムヒカ大統領の話だった。ムヒカ氏が政界から引退するとの記事が新聞に載ったのはその3日前だったのに、彼の経歴や国連でのスピーチの引用がすらすらと出てきた。僅か二日の間に台本を書き、暗記し、よどみなく話してしまうのだ。すごい才能であることもさることながら、きっと日ごろからネタを集め、膨大な知識を集積しているのだろう。

 この日ヒロさんが官邸前に来たのは、もちろん私たちに会うためではなく、当日の東京新聞で金武美加代さん(1月号に書いたKさんはこの人)が、遺骨を含んだ沖縄南部の土砂を辺野古埋め立てに使うことに抗議してハンストを行っていることを知り、彼女の話を聞きに来たのだった。コロナ禍になって公演がほとんどできないと言っていたが、その間にもこうして話の素材を集めているのだろう。大変な努力のいる仕事だと思う。あいにく他の新聞社の取材中だったので、その間私たちと一緒に歌ってもらった。さすがはプロ。初めての曲でもすぐに唱和できる。

 仲間の一人が「せっかくヒロさんがいるのだから『はばたけ憲法九条』を歌おう」と提案した。メロディーは、ベートーヴェンの第九である。

 

   ♫  憲法九条平和の砦 いのちと暮らしを守るかなめよ

     世界に誇れるこの憲法を みんなの力で守っていこう

 

     憲法九条平和の砦 争いなくして話し合おうよ

     子供の未来が輝くように 世界にはばたけ憲法九条 

     世界にはばたけ憲法九条                   (作詞:合唱団この灯)

 

 この歌を松元ヒロさんと一緒に歌えたなんて、感激!こういう出会いがあるから、毎週来ることが苦にならないのだ。首相官邸前は、私のパワースポットだ。