「働く」はみんなのもの

 

   ウーバーイーツな世界

     自由と無保障の狭間で

 

 

    ジャーナリスト 竹信 三恵子


 自由求めれば保障なくても?

 

 「ウーバーイーツ」という会社が話題になって久しい。「労働者保護がない過酷な働き方」という声が聞こえるかと思うと、「好きな時に働けて満足度が高い」という声もある。

 どっちなんだ?と考えあぐねていた昨年、ホストを務めるユーチューブ番組「信じられないホントの話」で、ウーバーイーツユニオンの土屋俊明さんと鈴木堅登さんに出会った。

 2人ともバイク好きで、それを生かした配達の仕事が好きだ。決まった労働時間を会社に決められて、指示にがんじがらめになって働くことが合わない、という点も共通している。

 労組の活動をしたくて、その合間にお金を稼げる働き方がほしかったり、雇用の劣化の中でパワハラに遭い、既存の職場に失望したり。そんな人生で、乗り物があって登録すれば入職でき、好きな時にお金が稼げる働き方へ向かう気持ちはわかる。

 振り返ってみると、パワハラ・セクハラだらけ、取材のためなら何でも我慢、という新聞記者の世界で私が30年以上も働けたのは、「取材」という社外での時間が大幅に許されていたからだ。

 でも、ウーバーイーツな世界は事故に遭っても「自営業でしょ」と徹底的に自己責任を求められる。自由を求めたら、生存のための最低限の保障さえ諦めなくてはならない? それはおかしい、と2人も言う。

 そんな気分を土屋さんはこう表現した。

 「誤解を恐れずに言えば、指揮命令の有無を問われる労働基準法はいいから、交渉権が保障される労働組合法を、という感じ」

 自由と生存を引き換えにしないで働くために、何が必要なのか。ウーバーイーツな世界を問うことで、それを考えていきたいと、そのとき思った。

 

 

  ヌエ(鵺)そのもののような存在

 

 ウーバーイーツな世界では、そこで働く人についてどこのだれが責任を持つのかさえよくわからない。

 ウーバーイーツは、2009年に米国で設立された「ウーバーテクノロジーズ」が2014年に始めた料理配達事業だ。

 このウーバー社は、海外ではアプリを介したタクシー事業で知られる。運行契約は運転手と乗客の間で結ばれ、ウーバー社は料金の徴収代行とアプリの仲介手数料を運転手からもらうだけと同社は主張する。雇用者責任の究極の回避とも言われる手法だ。

 日本では、2016年にウーバーイーツ事業だけが開始され、2019年、ウーバーイーツユニオンが結成された。

 同ユニオンによると、当初、日本でのウーバーの法人は「ウーバージャパン」だけだった。ところが同社は、団体交渉を拒否した。

 ウーバーイーツアプリの利用契約を配達員と締結しているのはオランダに拠点を置く「ウーバーポルティエ」であり、日本でウーバーイーツ事業を実施してきたのもこの会社だから、日本の配達員はオランダのポルティエ社と契約しているという理屈からだった。

 その後、「ウーバーポルティエ・ジャパン」が生まれ、「ウーバーイーツジャパン」に名前を変えたが、ここも団体交渉に応じていない。

 そこで同ユニオンは、ウーバージャパンを事実上の事業の実施主体とし、ウーバーポルティエ・ジャパンとともに2020年、団体交渉拒否について東京都労働委員会に不当労働行為の救済申立を行った。

 正体がわからない生き物をヌエ(鵺)と呼ぶ。働き手から見るとヌエそのもののそんな業態が、いま私たちの日常に出没し、想定外の事態を起こし始めている。