曽田 英夫 てつどう歴史散歩

 

     第4回 列車名が誕生する

 

 いま、東海道新幹線であれば「のぞみ○号」とか「ひかり○号」などと列車名で乗る列車を決めて切符を買っています。しかし、そのような列車名の歴史をひもとく人はいないと思いますが…。

 時代は昭和の始め。その頃不況に陥り、鉄道も乗客が減少しました。特に料金の高い特急列車はひどく、その対策として欧米で実行されている「ゴールデンアロー」「20世紀リミッテッド」などの列車愛称ともいわれる列車名を付けることとしました。そこで関心を集めるために、一般から募集することとしました。応募総数は5583票。宮脇俊三著『時刻表昭和史』41ページ掲載のポスターを見れば、10位までの結果は次の通りとなりました。

 

 第1位  富士  1007     第6位  鳩   371

 第2位  燕    882     第7位  大和  366

 第3位  桜    834     第8位  鴎   266

 第4位  旭    576     第9位  千鳥  232

 第5位  隼    495     第10位 疾風  219

 

 11位以下は「敷島」「菊」「梅」「稲妻」「宮島」「鳳」「東風」「雁」と続き、時代を感じさせます。

 この結果を受けて昭和4年(1929)9月15日、当時の東京~下関間特急1・2列車には第1位の「富士」、3・4列車は第3位の「桜」が命名されました。その年の11月7日からは両列車の最後尾にトレインマークがつけられました。

 さらに第2位で温存されていた「燕」(つばめ)は翌5年(1930)10月1日に東京~神戸間に新設された特急に命名されました。

 特急11・12列車「燕」は当時「超特急」とも呼ばれ、下り東京発9時、大阪着17時20分、神戸着18時、上りは神戸発12時25分、大阪発13時、東京着21時20分で、東京~大阪間を8時間20分で突っ走りました。ちなみに特急「富士」の東京~大阪間は下り10時間52分、上り10時間40分であったことから、いかに速かったかが分かります。

 昭和12年(1937)7月1日に東京~神戸間特急1031・1032列車には第8位の「鴎」(かもめ)が命名されました。戦前は以上の「富士」「桜」「燕」「鴎」の4つが命名されました。  

 戦後になって、「旭」(あさひ)、「隼」(はやぶさ)、「鳩」(はと)、「大和」、「千鳥」(ちどり)は命名されていきました。しかし、第10位の「疾風」(はやて)だけは命名される機会がありませんでした。「疾風」は「急に起こる激しい風」という意味の他に、「疫病」の意味があるので長く使われなかったものと思われます。

 それが平成14年(2002)12月1日になって東北新幹線・盛岡~八戸間延長の際に、東京~八戸間列車に「はやて」が命名されました。しかし平成23年(2011)3月5日にE5系「はやぶさ」が登場すると同新幹線の主役は「はやぶさ」に移っていきました。平成28年(2016)3月26日に北海道新幹線が新函館北斗まで開業、その後の時刻改正を経て、現在「はやて」を『時刻表』で探すと、下り新青森~新函館北斗間「はやて91号」、盛岡~新函館北斗間「はやて93号」上り新函館北斗~盛岡間「はやて98号」新函館北斗~新青森間「はやて100号」の定期列車2往復にすぎなくなっています。それにしても不運な列車名であることには変わりありません。