暇工作「課長の一分」

          うどん店「美々卯」事件とスラップ訴訟


 老舗うどん店「美々卯」東京店の閉店と従業員のたたかいについて先月号で書いた。その事件に新たな展開があった。

 従業員150人が退職・解雇された、この美々卯事件を取り上げた著名なフリージャーナリストがいた。「損保のなかま」にも「経済ニュースの裏側」という記事を寄稿している北健一さんである。

 北さんはダイヤモンド・オンラインでこの解雇事件を報じた。タイトルは「美々卯一斉閉店の裏に再開発利権か コロナ便乗解雇の深層」という記事である。ところが「美々卯」の大阪本社とオーナーがこの記事に異常な反応を示した。北さんとダイヤモンド社に対して名誉棄損・損害賠償の訴訟を起こしたのである。請求額は1,100万円+弁護士費用。高額の賠償金である。ジャーナリストやメディアを委縮させ、事件の後追い報道を諦めさせようという目的に違いない。いわゆる「スラップ訴訟」といわれる裁判制度の悪用だ。

 この「スラップ訴訟」は不法行為にあたると判例法理として確立している。ポイントは「法律的、事実関係的に認められないとわかりながら批判を抑える不当な目的で行われる場合、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく妥当性を欠く」というところにある。言論への口封じ目的としては「幸福の科学事件」「武富士事件」などがあり、弱小労組や個人加盟の労組・労働者個人を狙い撃ちにした類似の訴訟も多い。暇が知っているだけでも、女性ユニオン「ジャパンビジネスラボ事件」、全労連全国一般「フジビ」事件、首都圏青年ユニオン「スーパーホテル事件」、プレカリアートユニオン「テイケイ」事件等々が思い浮かぶ。

 暇自身が実際に関わった損保関連会社の解雇事件でも、会社側から「争議によって会社が被った不利益の損害賠償の裁判を起こすぞ」という脅しを受けたことがあるし「配布したビラに事実と違う箇所がある。訴える」と凄まれた場面もあった。

 「くやしければ金をつぎ込んでかかってこい!(だが、君たちにそんな資力も時間もないだろう)」と敵意を持ってうそぶく金満経営者の姿が闇の中に浮かぶようだ。

 近所の老舗うどん店の懐かしい味への惜別の心から始まった暇の「美々卯」従業員への思いは、北さんやスラップ訴訟にまでリンクしてきた。ぼーっと生きていたら気が付かなかったかもしれないニュースの裏側である。

 

(写真はたたかう全労連全国一般美々卯労組の組合員たち)