大杉良夫「保険金支払い事件簿」

       台風被害か経年劣化か。悪徳業者にご用心


 私が損保会社の支払担当者ということを知った近所のMさん(70代女性、一人暮らし)から相談を受けた。Mさんはさる業者から「お宅の屋根が損傷しているようですね。昨年の台風による被害ではないでしょうか。保険で直せますから工事をしませんか」という勧誘を受けたという。

 台風は1年も前のことだし、屋根が壊れたという実感もなかったのだが、保険が使えるなら、この際、点検・見積もりだけでもしてもらおうかと思うのだが、工事をした場合保険は本当に降りるのでしょうね。そういう相談というか質問である。

 Mさん宅の火災保険は「風災担保」付帯だから、台風で損傷を受けたのであれば支払いの対象になる。保険会社への事故報告は行っていないが、保険金請求の時効は3年だから請求権は消滅していない。問題は「1年前の台風による被害」である。事故後相当の時間経過があるから、台風による損害なのか、経年劣化なのかの判定が困難かもしれない。迂闊なことは言えない。

 心配なのは、Mさんが工事見積を添えて保険金請求を行い、保険会社がそれを免責とした場合だ。その場合、Mさんが業者に対し「保険でカバーできないなら工事はしません」と言えるかどうかである。業者側は「見積書を出した」とか「保険金請求の手助けをした」などさまざまな理由を付けて、保険とは切り離して強引に工事契約を迫るのではないか。

 中にはドローンを備えて空中撮影なども行い「風災」による保険金請求の代行まで行う本格的な専門ビジネスを展開している業者もある。それらの業者の倫理を一概にあれこれ言うわけにはいかないが、最近、こうした「保険」をダシにした一部の業者によるトラブルが多発していることもまた事実なのだ。国民生活センターによると、保険金請求付き住宅修理工事の勧誘に関する相談件数は昨年2020年の4~8月期だけで1,445件もあったそうだ。これは1年前の2倍近い数値という。そして相談者の半数は70歳以上であった。

 結局、Mさんには「まずは、保険会社の損害担当部門か、あなたの契約を扱った代理店に相談してください。見通しが立つまで業者との関係はほどほどに。なにか変化があったらすぐまた相談してください」とのアドバイスにとどめるほかなかった。

 問題の本質は保険ではなく、騙されない自助努力なのだが、それは周囲のサポートがあってこそ有効になる。 

 保険は人々のお助けマンである反面、一方では詐欺の小道具にもなる。支払い担当者は、保険を騙った詐欺まがいの商法からもお年寄りを守るべく目を光らせなければならないご時世である。