暇工作「課長の一分」

          うどん店「美々卯」の彼女たち


 東京・京橋に美々卯という老舗うどん店がある。いや、「あった」というのが正しいか。本社は大阪で関西風の味付けが暇のお気に入り。名物料理は「うどんすき」だが暇は「花湯葉うどん」が好きで週一くらいは昼食に通っていた。

 その店に最初に案内してくれたのがKさんだった。数年前のことである。接客フロアの従業員は若い人からかなりの年配者まで幅広かったが、みんな丁寧な対応で顧客を大切にしていることが感じ取れた。

 「お客さんを大切にしているよね、感じいいね」と初印象を言えば、「そりゃあ、彼女たち、全労連全国一般の組合員だからね」とKさんから自慢げな言葉が返ってきたことを覚えている。なぜ、組合員なら親切で感じがいいのか、なぜKさんが自慢するのか、の説明はなかったが、こちらもなんとなく納得してしまったのだから、世話はない。

 

 美々卯は都内に6店舗あるが、このたびその全店舗が本社の都合で閉店となった。従業員は組合加入している人もそうでない人も同じように解雇である。新聞も大きく報道した。東京本社である京橋店手前で抗議集会があるというので支援にいった。たたかいの大きな輪の中に、いつも花湯葉うどんを運んでくれていた、見覚えのあるベテラン女性従業員の姿もあった。

 「あ、やっぱり、あの人組合員だったのか!」

 Kさんの「組合員=感じがいい人」という公式を、暇自身の感覚が上書きした一瞬だった。

 その女性と視線が合った。暇は旗を持ったり腕章を巻いて出かけたわけではなかったから、彼女は軽く目礼をしてくれた。その表情には「あら、いつも花湯葉うどんをご注文になるお客様まで、応援してくださっている…」と書いてあった。目と目で連帯の会話が成立した。

 さて、そこで改めてKさんの公式を考えた。もちろん、組合員だからいい人、という図式に例外はある。ハッキリ言って組合員でも悪い奴はいるのだ。でも、いい労働組合なら従業員に働くことの素晴らしさを考えさせる。仕事や仲間たちを大切にすることを教える。人・仲間を大切にする本来の人間の良さを育むチャンスが増える。やはりKさんの法則は大筋で成り立つのだろう。

 彼女たちと暇は、顧客と従業員というだけの表層的な関係から、闘う労働者同士という新たな間柄に発展した。社会学者・テンニエスの概念で言えばゲゼルシャフトからゲマインシャフトへ、か。

 彼女たちはいまも闘い続けている。

(写真は支援集会でたたかう当事者たちが作ってくれた「うどんすき」)

 

 

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