北健一「経済ニュースの裏側」


        支配人を訴えた「ロハス」なホテル


 健康と環境、持続可能な社会生活をめざすライフスタイルをロハスという。ロハスを経営理念に掲げ、国内156店舗、海外2店舗のホテルを展開するのが株式会社スーパーホテル(本社・大阪市)だ。

 ぐっすり眠れるように室内を整え大浴場で汗を流せる。コロナ禍では大阪で宿泊療養施設に手を挙げ、無症状者、軽症者を受け入れた。ディーセントワークも重点課題にしているという。

 利用者の評価は高いが、スーパーホテル上野入谷口店の支配人らが起こした訴訟からは、担い手たちの窮状が浮かぶ。

 スーパーホテル(以下、会社)は男女のペアと業務委託契約を交わし、男女はそれぞれ支配人、副支配人としてホテルに住み込み、年中無休のホテル業務を回す。訴状によると支配人Aさんも、副支配人の渡邉亜佐美さんも、1日の就労は18時間に及んだ。

 会社側は裁判で、支配人は業務をアルバイトに割り振れるし、効率よくこなせば休憩も長く取れると主張した。自分たちがかなり働かないと店に利益が残らない構造は、コンビニにも似て見える。

 渡邉さんたちは首都圏青年ユニオンに加入。一度は会社との話し合いがもたれたが、昨年3月24日、幹部社員らが突然ホテルに来て業務を掌握。契約は解除され、渡邉さんらは職と住まいを失った。

 渡邉さんらが地位確認などを求め裁判を起こすと、会社は記者会見での「過激な発言内容」がインターネット上に掲載され深刻な被害が生じたなどとし、他の理由と併せ約3632万円(うち記者会見が1100万円)を払えと求める反訴を起こした。

 フジビ事件、ジャパンビジネスラボ事件にも通じるが、労働者から職を取り上げ、彼女・彼の発言まで訴える行為には違和感がある。会社に反訴の意図をただしたが「係争中」を理由に応じなかった。

 龍谷大名誉教授の脇田滋さんは「使用者責任回避のひどい例だ。支配人らが労働者と認められないのは社会正義にも反する」と話す。

 ILOのフィラデルフィア宣言には「表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない」という一節がある。職を取り上げられた労働者が会社に抗議する自由さえ脅かされるのは、とてもロハスには思えない。

 

 

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