昭和サラリーマンの追憶
昔はよかった…賃上げ率30%時代
前田 功
賃上げ30%時代
賃上げが30%以上あった年があった。30歳になる少し前だったと思うから、1973年か4年だろう。
この調子で給料が上がっていったら、将来はどのくらいになるんだろうと、計算したことがある。(今なら、パソコン使ってエクセルでやれば、一発で計算できるのだろうが、当時は電卓しかない。電卓は1つの課に1台くらいしかなかった。)
何度もキーを叩いて、年齢が上がるにつれて3割ずつ上がっていく数字を,紙に記入していったのだが、50歳くらいまで計算したところで、月収で2000万、年収で3億を超えた。あまりに現実離れしている気がして、作業をやめた。
グラフを見ていただくとわかると思うが、賃上げ率はその後、急低下し21世紀に入ってからは2%前後で推移している。
サラリーマンの平均年収は、1997年をピークにその後下がり気味だ。
退職金下がり保険料は増
退職金も下がっている。厚労省の「賃金労働時間制度等総合調査」によると大卒の男性定年退職者(勤続20年以上かつ45歳以上)の平均退職給付額は、1997年は2871万円だが、2018年は 1983万円。900万円も下がっている。
その間、公にかかる支出は増えている。1989年に3%で始まった消費税は、1997年に5%、2014年に8%、そして2019年に10%に上がっている。
年金保険料や健康保険料などの社会保険料も上がっている。国民年金保険料は、1974年は月額1,100円だったが、2020年度は1万6,540円になっている。
厚生年金の保険料率(毎月の給与と賞与にかけて計算され、事業主と被保険者とが半分ずつ負担する)も1974年は7.6%だったが、2020年度は18.3%になっている。
その間、高齢化はどんどん進み、私の年齢だと平均でも、男ならあと10年、女なら18年、生きなければならない。平均余命で死ぬならばなんとかなるだろうが、100歳以上の人が何万人という時代だ。生き過ぎるリスクはある。カネが続かないのでは・・・。
社会の調和と安泰に必要な五常の徳は、「仁・義・礼・智・信」だと儒教が教えている。なかでも重要なのが「仁」と「義」である。それは人間が守るべき道徳で、礼儀上なすべき努めのことである。日本人が大切にしている基本的な価値観でもある。
10月10日、公明党は政権を離脱した。
公明党は連立維持の条件として「靖国神社参拝」「裏金問題の解明」「企業献金問題」の対応を連立維持の条件としていたが、これらに対して自民党から明確な回答がなかったからだとしているが、自民党は「一方的に告げられた」と言っている。
私は、公明党が連立の条件を出したとき、その条件に一瞬「今さら?」という気がした。連立を組んで26年、その間、それらは何度も問題になったはずである。それを容認(?)してきたのに、なぜ、今になってそれを頑なに主張するのかと思ったのだ。だが、それは、民意に押されているからだと好意的に解釈していた。
自民党の党大会で、高市早苗が総裁になり、麻生太郎が副総裁になった。常識的に考えると、新総裁はいの一番に連立を組んできた公明党に挨拶に出向き、その上で「今後、どうしましょうか?」と相談するのが筋であろう。
だが、そうではなかった。高市と麻生が最初に会ったのが、国民民主党代表の玉木雄一郎だったのだ。当然、政権協力の話をしたのだろう。
「仁」と「義」に続くのが「礼」である。これも日本人の基本的な価値観で、日本人はこれらに欠ける人間を徹底的に嫌う。
自民党は、支えてくれた公明党に「仁義」も「礼節」も示さなかった。公明党からすればそれは侮蔑されたことであり、屈辱と怒りを感じたはずである。私だって相手がそういう人間なら、さっさと見切りをつけて縁を切るはずだ。
1973(昭和48)年『仁義なき戦い』という映画があった。シリーズで5作創られ、1999(平成11)年「日本映画遺産200」にも選ばれている。
ヤクザを主人公にしているが、ヤクザ映画でも任侠映画でもない。義理と人情、恩義と裏切り、愛と憎悪、怨念と殺戮を描いた群衆活劇で、戦後日本の暗黒社会を描いていた。
石破首相の退陣から総裁選、新総裁誕生と今までの政局をみていると、権力を握るための打算と工作、陰で暗躍する長老たちばかりが目につく。映画は「仁義なき社会は抗争を生む」といっていたが、自民党内部はまるでこの映画のようである。
かつて、自民党と有権者は、政策より義理と人情でつながっているといわれていた。そのころの自民党には、まだ「仁・義・礼」もあったということだろうが、今はカネがすべてのようだ。「五常」の残るは「智(道理をよく知り、知識が豊富)」と「信(情に厚く真実を告げ約束を守る)」だが、自民党はそれさえも失ってはいないか。