松久染緒「随感録」


         「出口のないねずみ講」の日本経済


  日本銀行が日本の企業の最大の株主となる日は近いという。どういうことか。

 

 2010 年度、日銀は過去にない異例の措置として 4500 億円を上限額に ETF(エクイティ・トラスト・ファンド、東証株価指数や日経平均株価に連動した株式投資信託のこと、当該指数や株価を構成する銘柄の株式を間接的に保有する仕組み)を購入した。それが、この 10 年間に「異次元緩和」で連年購入限度額を拡大、2020年度にはなんと上限額を 12 兆円とし、その保有額は今年度11月には、時価額で45兆円を超え、それまで国内株式の最大株主であった年金積立金管理運用独立行政法人を上回ることとなった。

(日銀が大株主となっている企業には、半導体検査装置のアドバンテスト(間接保有株式割合24%)、ユニクロのファースト・リテイリング20%、エレクトロニクスの TDK19%など一流企業が並んでいる。)

     

 日銀が株式を保有すると何が問題なのか。

 

 世界の中央銀行で、リスク資産である株式を保有する中銀はどこにもないこと。

 ETF では、株主総会における議決権行使は運用会社にゆだねられているため、企業経営に対する株主の監視機能が弱体化すること。

企業の業績や投資家の判断など市場で客観的に決められるべき株価が、日銀による圧倒的な ETF購入でゆがめられる恐れがあること。

 ETF の時価が変動する結果、日銀に含み損が生じること。 

 何よりも一番の問題は、日銀が購入した ETF を売却する場合だ。これまでは、ETF の大量購入で株価は維持されてきたが、いつまでも日銀が株を持っているわけにはいかない。日銀が ETF の売却にかじを切ると、大量の株式売却で一気に株価が大暴落、市場がパニックになる恐れがある。日銀は売却すらできないのではないかとの意見もある。

 

 日銀は、事実上の大量の国債の引受け(財政法第 5 条では、国債の日銀直接引受けは、戦時国債破綻の歴史に鑑みて禁じられている。違法である。)に加えて、株価の維持上昇を何よりも経済の回復指標とみる政治(アベノミクス)に忖度し、一向にインフレターゲットが実現できない自らの政策失敗を糊塗すべく毎年 ETF 購入限度を拡大し、無理やり ETF を購入させられたのだ。

 すでに日銀の大量の国債引受けは、国の予算作成・維持にとって、ゼロ金利政策とともにやめたら倒れる自転車操業になっている。日銀が金融緩和をやめれば、国債価格が下落して金利が上昇、大量の損失を抱えるし、金利上昇で国債の利払い費が増加すれば、もはや予算が組めなくなる。

 日銀のリスク資産は株式だけではない。REIT(リアルエステート・インベストメント・トラスト、不動産投信)も 2019 年 3 月で 5087 億円も持っている。こうなるともはや日銀は、前進も後退もできない。日本経済は「出口のないねずみ講」(金子 勝教授)さながら脱出できない泥沼にはまっているのだ。

 

 コロナ禍対策、GOTO キャンペーン、オリンピック開催など近視眼的な課題にかまけているうちに、長期金利が徐々に上昇し(国債の価値が減少、損失が発生)、為替市場の混乱、株式相場の大暴落と続き、ついにハイパーインフレにつながる日本経済の危機がすぐそこに迫っている。

 真に取り組むべき課題はどっちなのか本当にわかっているのか。怖いから見ないふりをしているのか。