北健一「経済ニュースの裏側」


        竹中氏の「朝生」発言と東洋酸素事件


 2021年も切実な雇用問題に関わって、「朝まで生テレビ」(テレビ朝日、201030日放送)での竹中平蔵パソナグループ会長の発言を考えてみたい。 

 

 竹中氏は「正規雇用はほとんど切れない」「首を切れない社員なんて雇えないですよ、普通」「それで非正規を増やしていかざるを得なかった」と述べた。

 雇用情勢が一段と悪化するなかでこんなことを言う感覚は理解できないが、番組で竹中氏は根拠らしきことも口にした。「日本がそうなったのは1979年の東京高裁判決のため」だと。だが、これも的外れとしか思えない。

 1979年に東京高裁が出した解雇に関する重要判例は、赤字になったアセチレン事業部門閉鎖に伴う解雇の是非が争われた東洋酸素事件判決だ。高裁は、解雇無効とした地裁判決を取り消し「解雇は有効」とした。配置転換も希望退職募集も行わず、労働組合との協議も尽くしていない。東京高裁は、かなり問題ある解雇を容認した形だった。

 この判例は「整理解雇4要件」のもとになったことで知られるが、結論は解雇容認だった。OECD調査でも日本は解雇規制が緩い国にカウントされている。

 ところで、東洋酸素のアセチレン部門があった川崎工場は活発な組合活動家が多く、「労使協調」に傾いていた組合本部とは距離があった。アセチレン部門の雇用を配転によって維持しなかった背景に活動家を嫌う会社の意図を見る向きもあった。

 解雇された組合員らは運動と交渉を粘り強く続け、解雇から14年後の1984年、会社が解雇を撤回、原告のうち6人が職場に戻る和解が中央労働委員会で成立する。その後の労使関係は円満で、職場に戻った6人は積極的な提案を行い研究にも寄与したという(労働政策研究・研修機構「解雇規制と裁判」参照)。

 解雇規制緩和を叫ぶ竹中氏は、菅政権が新設した「成長戦略会議」のメンバーになった。だが、菅首相が重用する竹中氏の主張とは逆に、雇用を守る努力こそコロナ禍の今、政労使に求められている。特に重要なのが労働組合との労使交渉だということを、東洋酸素事件・高裁判決後の経過は私たちに伝えている。