真山  民「現代損保考」


      自動車裾野産業・損保にも転機

                              


損害保険も自動車裾野産業の一角

 

 日本自動車工業会のホームページを見ると、「自動車関連産業と就業人口」という資料が載っている。それによると、自動車関連産業の従業員は542万人、日本の全就業人口6724万人の8.1%にも及ぶ。もちろん、損害保険業界もその裾野産業の一角である。

そうした自動車関連産業という広い裾野産業で働く人たちにとって100年に一度という自動車の変革は、その雇用や経営を大きく左右する問題である。そして、その変革を表す言葉がCASEという造成語である。すなわち、Connected(ITと結びつき快適性や安全性が向上)のC、Autonomous(自動運転)のA、Sharing(シェアリング)のS、Electric(モーターと電池で動く)のEである。

 

CASEの「E」が加速

 

 このうち、最近大きな動きをみせているのが「E」である。世界中での環境意識の高まりを受け、主要国で電気自動車の普及に向けた動きが一挙に加速している。環境問題に不熱心のはずの日本政府も、菅首相が所信表明演説で「2050年に温室効果ガス排出ゼロ」を唱え、続いて経済産業省が2030年代半ばまでに国内の新車販売を全てハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などの電動車に切り替える方針を打ち出した。これを受けトヨタ、ホンダ、日産が、EVの販売比率と台数の引き上げを表明している。

 下表はガソリン車(エンジン車、内燃車、ICEとも)とEV車の比較を示したものだが、EV車は従来の概念にある「自動車」ではなく、「クルマ×IT×電機・電子」であり、制御・吸気・排気・冷却・潤滑・駆動系と、あらゆる部品がガソリン車に比べて圧倒的に少ない。そうしたことから、ガソリン車とEV車価格差が縮まり同等になる「価格パリティー」が近づいているという報告も出ている。事実中国では7月に、日本円で43万円というEV車が発売され、9月に25,000台が売れ、EV最大手のテスラを抜いた。

 

ガソリン車VSEV車の比較

 

 ガ ソ リ ン

E  V  

中心的な部

機械系部品が中

電気・電子系部品が中

車体の重

車体は重

車体は軽量化が可

製品のライフサイク

比較的ライフサイクルは長

ライフサイクルは短縮

「車」の本

「自動車

「クルマ×IT×電機・電子

パワープラン

エンジンとエンジン関連部

電機モータ

エネルギープラン

燃料タンク・ポンプ、インジェクターな

リチウムイオン電池など車載

制御

エンジンコントロール、車

コンピューターユニットな

統合制御システム、インバーターな

吸気

スロットバルブ、エアクリーナー、ターボチャージャーな

排気

排ガス再循環装置、ブローバイガス還元装置、排ガス浄化装置な

冷却

ラジエーター、ウオーターポンプ、サーモスタットな

簡素なものもしくは不

潤滑

オイルポンプ、オイルフィルター、オイルストレーナーな

簡素なも

駆動

トランスミッション、クラッチ、トルク、コンバーターな

簡素な変速機、部分的に動力伝達装

 

*出処 『2022年の次世代自動車産業』(田中道昭著 PHPビジネス新書)

 

CASEのすべてが自動車保険料の下押し圧力に

 

 今後、販売価格はさらに安くなり、相乗効果でリチウムイオン電池の値段も下がり、かつ充電装置の箇所も増設されればEVは一挙に増える可能性がある。そうなると、自動車保険の車両保険の金額も減り、その分自動車保険料も減少することが考えられる。さらに、自動運転の技術が向上し、その装備車が普及すれば損害率も下がり、それは当然保険料の下押しにつながる。加えて、今はまだそれほど普及していないとはいえ、クルマも「個人所有からシェアリング」ということがなじんでくれば、それは台数の減少を来すことにもなる。

 

損害保険のありかたを考えるいい機会

 

 CASEはどれをとっても、自動車メーカーだけでなく、その裾野にある関連企業と、そこで働く従業員に多大の影響を与える。損保も自動車保険料の減収という問題に直面する。その自動車保険料収入によって、生活の糧を得、社会的地位を築いてきた損保業界ではあるが、クルマは保険料を生み出す源泉であるとともに、半面では環境破壊・気候変動の元凶であることも忘れてはならない。人類の生存あってこその保険である。化石燃料産業への資本投資を控える保険業界が現出している世界の動きも踏まえ、いま、損害保険の新しいありかたについて、視点を上げて考える時代が到来したのではないだろうか。