立憲主義で一致し、政権交代の年に

        

    前川 喜平 (元文部科学事務次官) 


 2020年9月、7年8カ月続いた安倍政権が終わりましたが、長かっただけで良いことは一つもない政権でした。

 小泉政権以来、新自由主義的な政策が続き、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなりました。現在、失業や倒産が増えていますが、これは新型コロナウイルスだけのせいではなく、アベノミクスの結果です。人間の命や生活をないがしろにしてきたアベ政治がもたらしたものです。

 安倍政権のもとで防衛予算は膨れ上がりました。各省予算のうちトップは厚生労働省ですが、2位グループは国土交通省・文部科学省・防衛省です。このうち文科省の予算は年々減らされ、逆に防衛省予算は増額が続いています。2020年度予算で防衛省の予算は文科省を逆転しました。

 

 憲法が破壊された

 

 安倍政権は立憲主義を破壊し続けた政権でしたが、その最大のものが安保法制=戦争法でした。これはそもそも違憲立法です。集団的自衛権が憲法9条のもとで認められるなどという閣議決定は、憲法破壊の最たるものです。

 安倍政権は同時に、官僚を官邸の下僕・私兵にしてしまいました。最高裁の裁判官も、いまや全て安倍内閣の下での任命です。会計検査院や人事院など、政府から一定の独立性を保っていた機関にも支配は及び、会計検査院は森友学園問題を追及しきれず、黒川検事長の定年延長問題で人事院は官邸に屈する国会答弁をせざるを得なかった。

 検察庁の定年延長問題でストップをかけたのは、土俵の徳俵でギリギリ踏みとどまったというところでしょうか。SNSの力もあって政府のねらいを押しとどめた。これは新しい形の民主主義の表れだと希望を感じました。

 安倍政権は、憲法を破壊し、三権分立を破壊し、独裁政治に道を開くところまできました。続く菅政権にしても、看板が変わっただけで本質は同じです。むしろ、法務・警察・検察への支配をより強め、恐怖政治が始まるかもしれない。

 

 民主主義を取り戻そう

 

 これに対抗するには、野党が一つにまとまらなければなりません。新型コロナによる中小企業の倒産・廃業、労働者の失業などは今年、より顕在化するでしょう。新型コロナによる経済苦で死を考えるまで追い詰められている国民が大勢いる。政治は、そうした人たちに生きる希望を与えなくてはなりません。

 私が専門とする教育の世界でも、同調圧力・権威主義がはびこり、ファシズムが現実のものとなっています。このままでは民主主義の担い手を育てることができなくなってしまう。

 新自由主義と決別し、ファシズムを食い止めるためにも、2021年は何としても政権交代の年にしてほしい。自民党の中にも護憲派はいるはずです。立憲主義か否かを対立軸にして、野党は立憲主義で一致して、政権を獲得してほしいと心から願っています。

 

 Profile

 まえかわ きへい 1955年奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、1979年に文部省(現文部科学省)入省。初等中等教育局長、文部科学審議官などを歴任し、2016年6月から17年1月まで文部科学事務次官。加計学園問題をめぐる内部文書の存在を認め話題に。著書に「面従腹背」(毎日新聞出版)、「同調圧力」(角川新書、共著)、「官僚の本分」(かもがわ出版、共著)など多数。現在は自主夜間中学のスタッフとしても活動中。