雨宮処凛の「世直し随想」

             殺傷犯の絶望と歪み


 電車や新幹線内で、無差別に人を襲うような事件が相次いでいる。

 8月には、小田急線で30代の男性が10人に重軽傷を負わせ、逮捕。車内にサラダ油をまくなどした男性は「幸せそうな女性を殺したかった」と供述している。

 それにヒントを得たという事件が起きたのは、衆院選投開票日でハロウィンの10月31日。映画に登場するジョーカーの衣装をまとった24歳の男が京王線車内で男性を刺し、ライターオイルをまいて車両に火をつけたのだ。男性は「仕事で失敗し、友人関係もうまくいかなかった」と話し、「人を殺して死刑になりたかった」と語っているという。

 そんな事件が起きた約1週間後、今度は走行中の九州新幹線の床に火をつけた男が放火未遂で逮捕されている。幸い、けが人はいなかったものの、捕まった69歳の男は、京王線の事件をまねようと思ったなどと話しているという。

 「電車に乗るのが怖い」「もう居眠りなんてできない」。私の周りからもそんな声が上がっている。

 相次ぐ事件から思い出したのは、2018年、走行中の東海道新幹線の車内で3人が襲われ、1人が死亡した事件だ。逮捕された22歳の男には一審で無期懲役が言い渡されたが、その瞬間、男は法廷で万歳三唱をした。子どもの頃から、無期懲役になり刑務所で暮らすのが夢だったという。

 そんな男の人生に迫った本「家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像」を読んだ。「刑務所に入りたい」「死刑になりたい」と望む人々の絶望とこの社会のゆがみに暗たんたる気持ちがこみ上げる。