真山  民「現代損保考」


        メガ損保、及び腰の「石炭火力発電所保険引き受け停止」

 

 

神戸市で進められる石炭火力発電所の建設。

Japan Beyond Coal─日本の石炭火力発電所のゼロをめざすキャンペーン─のホームページ所載 

 

 

 東京海上、石炭火力発電所向け保険引き受け停止

 

 9月27日、日経は「東京海上、石炭開発向けの保険引き受け停止 国内勢で初」と見出しの記事を掲載し、こう報じた。

 東京海上ホールディングスは10月から、石炭火力発電向けの国内外の炭鉱開発に関する新規の保険引き受けや投融資を停止する。商社やエネルギー会社などが炭鉱を開発する際には、事故や想定外のトラブルに備えて保険に入ることが事業融資の前提になっている。日本の損害保険会社で炭鉱開発の保険引き受けを停止するのは東京海上が初めて。

 しかし、この記事の最後にはこうある。「脱炭素技術を導入した発電所での使用を前提とする炭鉱開発は保険を引き受ける場合もある。排出した二酸化炭素を回収して地中に埋める技術や、化石燃料に水素やアンモニアなどを混焼する技術を導入した発電所での使用を前提とする案件については慎重に検討する」

 東京海上ホールディングスのホームページも「気候変動戦略の実践」として、こう説明している。

 石炭火力発電所および炭鉱開発(一般炭)については、新設および既設にかかわらず、新規の保険引受を行いません。ただし、CCS、CCUSや混焼(※)などの革新的な技術・手法を取り入れて進められる案件については、慎重に検討の上、対応を行う場合があります。また、既に保険引受を行っている発電所に対しても、温室効果ガスの排出削減・停止につながる先進的な技術の採用など環境への配慮をエンゲージしていくことで、脱炭素化や低炭素化の取組みを支援します。

 ※、CCS  Carbon dioxide Capture and Storageの略。「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれ、発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する技術。

 CCUS  Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略。分離・貯留したCO2を利用する技術。 

 混焼 燃焼時にCO2を出さないアンモニアなどを石炭に混ぜて燃やす技術。政府や電力企業がCO2排出を抑える切り札の一つとしている。

  

 岸田首相が選ばれた「化石賞」

 

 国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)に出席した岸田首相は、11月2日、「すでにある火力発電所は、燃料を石炭や天然ガスからアンモニアや水素に置き換えることで、温室効果ガスを出さない“ゼロミッション化”によって活用する」と講演した。

 この発言を環境NGOの「気候行動ネットワーク」(CAN)が「CO2排出量の多い火力発電所を推進し、アンモニアや水素を使ったゼロミッションの火力発電を妄信している」と批判、「アンモニアや水素によるCO2削減は、未熟で費用を要する技術であり、かつその燃料の製造自体に化石燃料が必要であり、気温上昇を産業革命前から比較して1.5℃に抑えるには役立たない」とし、温暖化対策に後ろ向きな国に贈る不名誉な賞「化石賞」を岸田首相に贈った。

 「アンモニアや水素によるCO2削減という新技術」は、政府が昨年12月に発表した「2050年カーボンニュートラルにともなうグリーン成長戦略」に盛り込まれたもので、岸田首相のCOP26での演説は、これをベースにしている。

 この「グリーン戦略」に対しては、多くの気候やエネルギーの専門家も「実用化されておらず、その可能性もはっきりしない新技術の必要性をことさらに強調し、それらの研究開発に対する補助金などを示すだけで、具体的効果的な対策をほぼ先送りしている」(『グリーン・ニューディール』明日香壽川・東北大学大学院環境科学研究科教授著 岩波新書)と批判している。

     

 中途半端な「石炭火力発電所向け保険引き受け停止」

 

 この批判は東京海上だけではなく、MS&ADインシュアランスグループホールディングスやSOMPOホールディングス(SOMPO)の方針にも当てはまる。日経は東京海上が「国内損保で石炭火力発電所向け保険引き受けを停止するのは、東京海上が初」と伝えているが、実はそうではない。

 昨年9月30日、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワークなど、5つの環境保護NGOが「MS&ADが石炭火力新方針を発表~3大損保の方針が出揃ったものの、方針強化が不可避~」と題した「共同声明」を発表、「日本の3大損害保険会社による石炭火力発電への保険引受方針は、例外規定が幅広く、方針強化が不可避な状況」と批判した。

 日経自身、今年6月25日の朝刊で、「MS&ADインシュアランスグループホールディングス(HD)が、国内外の石炭火力発電所の新設工事で保険引き受けと投融資を全面停止する方針を固めた」と報じ、さらに「東京海HDやSOMPOHDを含む損保大手は、新規建設で保険引き受けや投融資を“原則”停止した。MS&ADは“原則”の文言を削除し、これまでエネルギー安定供給に必要不可欠な場合は慎重に対応するとしていた例外規定をなくす」と付け加えているのである。もっとも、「既存施設の修繕工事や、労災や傷害保険など建設従業員向けの保険」は引き受けるのだから、中途半端な方針であることは変らない。

 

 脱石炭火力の動きに背くメガ損保

 

 COP26では、脱石炭火力を目指す動きは、中国、インド、日本の抵抗で「段階的廃止から段階的な削減」と後退した感がある。しかし、「石炭火力は延命したと考えるのは早計」(松尾博文・日経新聞論説委員)であり、「これまでのCOPの合意文書では『石炭火力』が言及されてこなかったことから考えると、『削減』の文言が入ったことは、石炭火力からのエネルギー転換の大きな潮流」(高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授)を示している。

 及び腰ともいうべきメガ損保の「石炭火力発電所向け保険引き受けの停止」は、地球温暖化による異常気象の頻発で巨額の保険金支払いを余儀なくされている損保がとるべき道ではなく、世界の脱炭素化の大きな流れにも背く姿勢であることは明らかだ。