暇工作「生涯一課長の一分」


          大谷選手と約定履行費用保険


 大谷選手がアメリカン・リーグのMVPに選ばれた。(写真はNHKテレビより)

 早くも来年以降のFAや年俸が話題になっている。大谷選手の金銭的価値は1年80億円との試算もある。同僚のトラウト選手が「12年・470億円」という長期契約を結んでいることを考えれば、大谷がもし長期契約を結ぶとしたらその金額は一体いくらになるのか、いずれにしても途方もない巨額になることだけは間違いない。

 「ところで、暇さん。いわゆる長期契約は、選手にとっては、安心・安全ですが、球団の立場から言えば、もし選手が金額に見あう活躍をしなかった場合の予定外れは困りますよね。球団側に対策はあるのですか?保険会社が補償するって話を聞いたことがあるのですが…」

 野球ファンの知人からの質問である。損保会社の(元)社員なら、すべての保険に詳しいと思っているらしいが意外とそうでもないのだ。自分の仕事をこなすのに精いっぱい。別分野のことを知ろうとしても、そんな余裕がない。そう、意外に「しろうと」なのだ。

 というわけで、暇は、新種保険分野で活躍していた知人に振った。彼はこう答えてくれた。

 「日本でいえば、約定履行費用保険ですね。この保険は被保険者(この場合球団)が第三者(この場合選手)との間であらかじめ約定している場合、その約定を履行することによって被保険者が被る損害に対して保険金を支払う保険です。たとえば、選手と長期契約を結んだが当該選手が不調に陥った。しかし、契約金は支払う義務がある。こんな場合、選手の不調を『偶然性』と見なし、保険契約の根拠にするわけです。とりわけ、アメリカの保険は、なんでもありですから、こんなの日常茶飯事ですよ」

 「費用利益保険」ならかかわったことがある。「興行中止保険」が一般的だ。雨で運動会が中止になった場合などの弁当代やテントのレンタル代金を支払う保険だ。「費用利益保険」ではプロゴルフ大会のホールインワンの懸賞金もカバーされる。

 だから、メジャーリーグ選手の長期契約に絡む球団側のリスクをカバーする保険も、この「費用利益保険」の考え方が原形になっているといわれれば理解しやすい。もっとも、知人が言うように「なんでもあり」のアメリカだから、保険料率は、いったいどんな方式で算定されるのか、基礎データはいったい何か、などと聞いてみても野暮かもしれない。保険会社と球団の双方が合意している保険契約だとしても双方にとっては「賭け」的要素が大きいのは承知の上だろう。

 だが、「なんでもあり」とか、「賭け」とかいっても、大興行資本と保険会社に抜かりはない。統計的長期スパンで見ればそのツケは巡り巡って我々が肩代わりする仕組みはちゃんと出来上がっている。