曽田 英夫 てつどう歴史散歩

 

   第12 回(最終回)現在の特急列車名

 

 第4回に戦前の特急列車名は「富士」「桜」「燕」「鴎」の4つであったと書きました。「富士」「桜」命名の昭和4年から92年、今の列車名は大いに変化していると思われますが…。 

 「かいおう」-JR九州の「かいおう」は直方市出身の元大関「魁皇」に因み、大関昇進後の平成13年(2001)10月6日に博多~直方(のおがた)間の特急列車名に命名されました。引退後ではありますが、現在1往復走っています。関取の四股名を列車名としたのは鉄道史上最初で唯一です。JRでは列車名を変える予定はないとの事です。

 「ハウステンボス」-「ハウステンボス」は長崎県佐世保市に平成4年(1992)3月25日に開業したテーマパーク名で、最寄駅「ハウステンボス」は同年3月10日に早岐(はいき)~南風崎(はえのさき)間に開業しました。特急「ハウステンボス」は開業と同時に運転を開始しましたが、当初は臨時列車でした。列車名は全部カタカナでかつ目的地のテーマパークである点では異色です。現在、博多~ハウステンボス間に5往復健在です。日豊本線にはレジャー施設「宮崎シーガイア」を冠した博多~宮崎空港間1往復の特急「にちりんシーガイヤ」もあります。

 「ソニック」-平成7年(1995)4月20日、「にちりん」のうち一部電車に愛称がSONIC(音速)の883系電車を使用し「ソニックにちりん」としました。平成9年(1997)3月22日に特急「にちりん」のうち博多~大分間列車を「ソニック」としました。現在は26往復で、「にちりん」の8往復を超して、「ソニック」の天下です。

 「ゆふいんの森」など-他には特急「ゆふいんの森」「九州横断特急」、JR九州特有の観光列車D&S列車では「海幸山幸」「A列車で行こう」「指宿のたまて箱」「在る列車」等があり、どの列車名も斬新です。ただし、「かもめ」「みどり」「ひゅうが」「きりしま」等のオーソドックスな列車名もあることも申し添えておきます。

「モーニングEXP高松」「モーニングEXP松山」-JR四国では特急「しおかぜ」「いしづち」「宇和海」「南風」「しまんと」「あしずり」「うずしお」「むろと」「剣山(つるぎさん)」と列車名はオーソドックスです。その中に「モーニングEXP高松」「モーニングEXP松山」があり、発音すれば、「モーニングエクスプレスたかまつ」「モーニングエクスプレスまつやま」となり、三つの単語を合成した全く新しい列車名です。今年3月の時刻改正までは「ミッドナイトEXP高松」「ミッドナイトEXP松山」もありました。JR四国の観光列車は「伊予灘ものがたり」、特急「四国まんなか千年ものがたり」、特急「志国土佐 時代の夜明けものがたり」がありどれも長い列車名です。

 「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」-東京~高松間特急「サンライズ瀬戸」と東京~出雲市間特急「サンライズ出雲」は名列車「瀬戸」「出雲」の頭に285系電車の愛称である「サンライズ」が冠されており斬新です。

 「スーパーおき」など-中国地方の特急には「スーパー」を冠する列車名が多く、鳥取・米子~新山口間特急「スーパーおき」、鳥取~米子・益田間「スーパーまつかぜ」、岡山~鳥取間「スーパーいなば」、京都~鳥取・倉吉間「スーパーはくと」です。「スーパー」がこの地方に集中しているのは不思議です。

 「らくラクはりま」-平成31年(2019)3月16日に新設された特急「らくラクはりま」は土休日運休の新大阪~姫路間で播州地方からの通勤電車です。全車指定で座って「楽々」通勤というのが、そのまま列車名となっています。

 「サンダーバード」-かつては大阪から北陸方面へは特急「雷鳥」でしたが、現在は「サンダーバード」です。「雷=サンダー」「鳥=バード」なので「雷鳥」を英語に変えただけと思われるでしょうが、「雷鳥」は「SNOW GROUSE」または「PTARMIGAN」が正しい英語です。平成7年(1995)4月に愛称が「サンダーバード」である681系電車が投入され、8往復が「スーパー雷鳥(サンダーバード)」として登場し、平成9年(1997)3月8日に「サンダーバード」に改称され、現在は大阪~金沢・和倉温泉間は全て「サンダーバード」です。

 「ダイナスター」-福井~金沢間の特急です。「ダイナスター」とは何か。これは恐竜の英訳である「ダイナソー」に地元の期待を込めた「スター」を組み合わせた列車名としては初めての合成語です。近畿・北陸では「びわこエクスプレス」「おはようエクスプレス」「おやすみエクスプレス」(いずれも土休日運休)、「能登かがり火」があり、どれも長いです。

 「〔ワイドビュー〕しなの」など-JR東海では373系電車、85系気動車の特急には〔ワイドビュー〕が付いています。373系電車は名古屋~長野間「〔ワイドビュー〕しなの」、豊橋~飯田間「〔ワイドビュー〕伊那路」、静岡~甲府間「〔ワイドビュー〕ふじかわ」で、85系気動車は名古屋~新宮・紀伊勝浦間「〔ワイドビュー〕南紀」、名古屋・大阪~高山・飛騨古川・富山間「〔ワイドビュー〕ひだ」の各列車です。

 「成田エクスプレス」-平成3年(1991)3月19日に東京・新宿・横浜~成田空港間の特急がデビューしました。空港へ行く列車であれば「つばさ」とか「おおぞら」となるところ、「成田エクスプレス」と命名したところに斬新さがありました。切符を買おうとしたら窓口嬢は「ネックス1枚」と返してきました。当局も列車名が長くて言いにくいのか、短くしていました。 

 「踊り子」など-伊豆地方へは特急「踊り子」と「スーパービュー踊り子」でしたが、令和2年(2020)年3月14日より「踊り子」「サフィール踊り子」となっています。「サフィール」は「サファイア」のフランス語で、車両はE261系電車です。この他に「富士回廊」「スワローあかぎ」「スペーシアきぬがわ」なども挙げられます。「スワロー」はダジャレだと思っています。

 東北・北海道では特急「しらゆき」「いなほ」「つがる」「北斗」「すずらん」「カムイ」「ライラック」「おおぞら」「とかち」「オホーツク」「大雪」「宗谷」「サロベツ」の各列車が走っていますが、すべてオーソドックスな列車名となっています。

 

 ここまでの文章を書くために、曽田英夫『発掘!明治初頭の列車時刻』交通新聞新書、同『列車名徹底大研究』JTBマイロネブックス、同『幻の時刻表』光文社新書、大久保邦彦・曽田英夫『列車名大研究』日本交通公社、大久保邦彦・三宅俊彦・曽田英夫『鉄道運輸年表』JTB『旅』付録、三宅俊彦『時刻表百年のあゆみ』成文堂書店などと各時刻表、雑誌などを参照しました。

 

 今年1月から鉄道の歴史を駆け抜けてきましたが、これが最終回です。最後までお読みいただきましてありがとうございました。