北 健一 「経済ニュースの裏側」


電源をケチる裁判長 

 JR東海は10月1日、新幹線に乗りながらモバイル端末などを気兼ねなく使って仕事を進めるための「S Work車両」の提供を始めた。デジタル化が進む社会でPCを使って仕事ができる環境は「当たり前」になりつつあるが、時間が止まった空間もあるらしい。

 9月27日、横浜地方裁判所(写真)403号法廷で公判前整理手続き(刑事公判が始まる前に、事件の争点と証拠を裁判所、検察官、弁護人が集まって整理する場)があった。

 弁護人として手続きに臨んだ高野隆弁護士に、裁判長は「皆さんだけに電気の使用を許すわけにはいかないので。国の電気ですから、私的とか、仕事上かもしれないけど、自前の電気でやってください」と述べ電源使用を禁じた。

 高野弁護士は異議を申し立てたが棄却されたため、9月30日、東京高裁に抗告した。

 被告人の弁護にあたる弁護士は法廷にノートパソコンを持ち込み、メモをとり資料を調べ、パワーポイント(プレゼンソフト)を用いて意見を述べる。その際、弁護人席の電源にパソコンをつなぐ。

 電源使用禁止は時代錯誤の嫌がらせにも見えるが、「理由」も問題含みだ。裁判長は、弁護人の仕事が「私的」だから、と言ったのだから。弁護士が、裁判官、検察官より「下」とされ、司法省に監督された、戦前のような発想である。

 刑事被告人には弁護人を選任し、その援助を受ける権利がある(憲法37条)。刑事司法に不可欠な弁護人の活動を、「私的」と決めつける勘違いに驚かされる。

 取材に対し横浜地裁(総務課)は、「個別具体的な事件の事実関係については回答を差し控える」とした上、「一般論」として「横浜地裁では、裁判に必要な電源の使用は認めるが、もっぱら来庁者の便宜、利益のための利用は認めていない」とした。公判前整理手続きでの弁護人の電源利用が、私的便宜なのだろうか。

 高野弁護士には、『人質司法』(角川新書)という著書もある。人質司法は、日本の刑事司法の悪弊だ。警察言いなりの「自白」を強い、「自白」しなければいつまでも身柄を拘束した上、99%超を有罪にしてしまう。刑事司法の深い闇と、電源禁止とは、根っこでつながっていると思えてならない。