真山  民「現代損保考」


            生損保は「温暖化対策」にどう取り組んでいるか

 

 

 

 東京海上が石炭火力発電の炭鉱開発の保険引受停止

  

 保険業界が温暖化対策や2050年のカーボンニュートラルの取り組みを強めている。損害保険は再生可能エネルギー事業者向けの保険提供や独自の脱炭素支援策を展開し、生命保険は世界的な潮流であるESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のこと)を加速する。

 まず、東京海上ホールディングスの「石炭火力発電向けの国内外の炭鉱開発に関する新規の保険引き受けと投融資の停止」についてだ。日経電子版(9月27日)はこう伝えている。

 東京海上ホールディングスは10月から、石炭火力発電向けの国内外の炭鉱開発に関する新規の保険引き受けや投融資を停止する。商社やエネルギー会社などが炭鉱を開発する際には、事故や想定外のトラブルに備えて保険に入ることが事業融資の前提になっている。国内のほかの損保会社も追随する公算が大きく、日本企業が関わる国内外の新規の炭鉱開発は事実上難しくなる。

 生保では、第一生命が保有する大規模オフィスビル3棟に対して、クリーンエナジーコネクトが、合計2MW(メガワット 2000キロワット)の低圧太陽光発電所を開発し、発電したグリーン電力を当該オフィスビル3棟へ20年間届けるという契約を締結した。23年度までに保有不動産の消費電力を100%再生可能エネルギーにする計画を立てている。

 損保では、三井住友海上が、2021年内に宮城県東松島市で地元企業などと共同出資の新会社を立ち上げ、再生可能エネルギー事業に参入する。全国で複数の太陽光発電所を設立し、発電した電力を地域内の取引先企業や自社ビルに供給する。発電データやリスクを計測し、再エネ事業者向けの新たな保険サービスにもつなげるという。

 金融庁も行政方針で、「投融資先が気候変動に対応できるように金融機関が積極的に関与し、ノウハウを提供することが期待される」と指摘。国際的な枠組みに基づく気候変動のシナリオ分析を実施し、金融機関や保険会社の取り組みを監督する。分析対象は三菱UFJ▽三井住友▽みずほの3メガバンクと、東京海上ホールディングス(HD)▽MS&ADインシュアランスグループHD▽SOMPOHDの大手損保3グループである(朝日 8月31日)。

              

   洋上風力発電の保険も

 

 東京海上日動火災は、初めて国内の事業者向けに「洋上風力発電パッケージ保険」を開発した。工事や操業時のリスクを包括的に補償する保険で、経験の乏しい国内事業者もサポートする。

 損害保険ジャパンは、洋上風力発電のリスクを把握しやすくする計算方法を東京大学と共同で開発。波や風、事故が起きたときに船を手配する費用など、海上ならではのデータを分析することで、数千億円の大型事業でも収支の見通しが立てやすくなるという。

 両社が洋上風力発電についての保険やリスク診断のサービスの取り組みを強化に乗り出したのは、日本政府が発表した「2040年までに最大4500万キロワットの洋上風力を建設する」という計画が追い風になっている。

 三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、8月から企業向けの火災保険において、被災建物等の復旧時に、新たにCO排出量削減に繋がる設備等を採用する際の追加費用を補償する「カーボン ニュートラルサポート特約(脱炭素化対策費用補償特約)」を販売し、企業の脱炭素化に向けた取組みを支援する。被災建物の復旧時に、二酸化炭素(CO)排出量の削減につながる設備や技術の導入にかかる追加費用を補償する。例えば屋根の復旧時に太陽光発電設備を新設するケースや、CO排出量が少ないバイオエタノール燃料を用いる自家発電設備の導入などが対象になる。販売後3年間で500社超(両社合算)の契約を目指すという。

 

 政府のエネルギー基本計画 再エネは増えてはいるが…

 

 政府は10月22日、新たなエネルギー基本計画を閣議決定した。再生可能エネルギーを「最優先に最大限導入する」方針を掲げてはいるものの、原子力政策は見直されず、菅義偉前政権が7月にまとめた計画案(次章・つじつま合わせの日本政府の「エネルギー基本計画」参照) をほぼ踏襲している。「基本計画」の骨子は、次のとおりだ。

 1. 2030年度の電源に占める再生エネの比率を19年度実績の18%か

   ら36~38%にまで引き上げる。

 2. 原発は7月にまとめた6%から20~22%に引き上げる計画の目標値を

   据え置く。

 新たなエネルギー計画では、30年度に温暖化ガスの排出量を13年度比で46%減らす目標を国連気候変動枠組み条約に提出しているが、石炭火力の割合を19%と、依存度は先進7カ国(G7)の中で高く、批判が出かねない状況だ。

 

  つじつま合わせの日本政府の「エネルギー基本計画」

 

  7月21日、経済産業省は中長期のエネルギー政策の方針を示す「エネルギー基本計画」の素案を公表した。2030年度の電源構成の目標については、再生エネ比率を今の計画の「約22~24%程度」から「約36~38%程度」に引き上げ、原子力の比率は「約20~22%程度」を維持し、再生エネや原子力など、温室効果ガスを排出しない非化石電源の比率を必要な電源の約6割とした。一方、石炭やLNG(液化天然ガス)などの化石電源の比率は、2019年度76%から20%減らすものの、なお4割の使用を見込んでいる。

 しかし、経産省が示した「エネルギー基本計画」は、「つじつま合わせ」に過ぎないという評価が強い。「基本計画」について議論してきた経産省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会は、2021年4月に菅義偉首相が「2030年の温室効果ガスを2013年比46%削減する」と表明したのを境に議論が迷走、開催が予定されていた基本政策分科会が8回も中止となり、経産省は混乱を繰り返した。

 それでも、経産省がエネルギー基本計画の見直しを急いだのは、COP26に間に合わるためだ。菅首相(当時)が打ち出した46%削減目標を実現するための具体策を用意したうえで会議に臨むべく、新たなエネルギー基本計画の策定を急いだのである(東洋経済PLUS 9月30日)。 

 生損保のとりくみをどう評価すべきか

  

 世界的に温暖化対策やカーボンニュウートラルの取り組みが広がるなかで、化石燃料の削減に及び腰で、原発の比率を高めようという日本政府と、それに同調する日本の財界は、どう見られているのか。そして、生損保業界の火力発電向けの炭鉱開発に関する新規の保険引き受けと投融資の停止や再生エネルギー事業への参入などは、どう位置付け、評価すべきなのか。次号は、それについて述べてみたい。